アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#147
2025.08

「水」から考える 人と環境

3  肯定した先にある未来 土地と風景の揺らぎのなかで 京都府京都市

3)見方を固めず、長い時間軸で

——地域の風景は、「今」だけを切り取るのではなく、長い時間のなかで見ていくことが大事なのでしょうか。

それぞれの地域が、自然環境と手を取り合いながら、どういう年の重ね方をして今の表情になっているかを見ていくと、先人たちが開拓してきた「その土地で生きるためのルール」が現れやすくなってきます。
多くの文化財の価値って、時代性や様式といった視点から評価されて、それを完成形として、その状態のまま次の世代に伝えていくことが求められます。でも、対象が風景になったとき、同じようにはできないですよね。「その土地で生きるためのルール」のようなものを顕在化させて、それを揺らぎを持たせながらつないでいく。変化しつづけることで生きてきたものを固める言葉で表現してしまうと、時代の変化に合わず、暮らしと乖離してしまう。ですから、風景や地域について何か表現するときは、そのことにすごく気をつけています。
生きるって単純ではないですし、そこが面白い。複雑さのまま受けとめていきたいです。

——今回の特集の前2回でも取り上げたのですが、アートというのも元々、そういう一義的には名指せないような複層的で、複雑な領域を表すための一つの技術だったのではと感じています。揺らぎを受け入れるような表現の仕方が、「Water Calling」と惠谷さんとが共有している部分ではないかと思いました。

イザベルは2024年に京都国立博物館で曼荼羅と出会って、私は私で、同じ年に奈良国立博物館で開かれていた「空海 KŪKAI—密教のルーツとマンダラ世界」という展示で曼荼羅に目を奪われていました。その展示で曼荼羅を見ながら、「これって風景の理解と、その表現として取り組んでいることに通じるものがあるな」と思っていたところだったのです。イザベルから曼荼羅が提案された時は本当に驚きました。
いろいろな試みを経て、結局先人がやったところに繋がっていく。みんな巡り巡って同じようなことをしているのかもしれません。曼荼羅は一つの面として繋がり合う世界を表そうとした時の、東洋的な究極の姿なのかもしれないですね。