4)ビジュアルで串刺しにする
実際に機能することを目的に、必要な手段を考える。「Water Calling」には、そのようなダエロンさんのデザインの思考が息づいている。永井さんは振り返る。
「こういう多様な表現ができるのはイザベルだからなんですよね。彼女はすごく効率的に自分のドローイングを展開していきます。たとえば、これは初期に描いたドローイングを上手く再利用したり、部分に分けたり、更新していったり。人に伝えるために、どうやってこのドローイングを最大限に使うことができるのかを考えているのです。今回のプロジェクトにまつわる制作物それぞれに目的がありました。メッセージを流通させるという意味で、本を作ることは最初から考えていましたが、展覧会は人を集める場で、地図は展示で作ったものがひとりでに旅立っていくための道具というようなイメージがありました。それを、ビジュアルと立体を駆使して全部串刺しにできるのは彼女ならではの感性と技術です」
水をめぐる問題を含め、地球環境の問題が深刻化するなか、人が自然へと意識を向けることには喫緊の必要性がある。そのためにデザインという方法をどのように活用できるのだろうか。その疑問をダエロンさんにぶつけると、こんな答えが返ってきた。
「デザインは、今人間が向き合っているいろいろな問題や、それにまつわるデータなどの中間点というか、それらをつなぐものになるのではないでしょうか。グラフィック、物、装置など、いろいろな方法を経由して伝えることができると思います。デザインによって物にしたり形にしたりすることで、いろいろな情報が集まり、それらを翻訳することが可能になります」
メディアの境界を越え、情報を集め、翻訳することにおいて、デザインが力を発揮する。ダエロンさんの言葉には、デザインが持つ力への確信が感じられた。
アートの根源にある動機へ立ち戻り、さらにデザインという方法をふんだんに活用することで、「Water Calling」のプロジェクトは展開されている。先に永井さんが言っていたように、アートやデザインという枠組みにとらわれることのない、プロジェクトの魅力的な形を、そこに見出すことができる。