アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#143
2025.04

社会を変えるデザイン

3 みんながつながる 地区の家 イタリア アレッサンドリア
4)ファビオさんの話1 尊厳、環境、連帯感

ファビオさんたちのプロジェクトは、規模の大きな取り組みから小さな試みまで多岐にわたる。スタッフがコミットする程度もそれぞれで、地域住民やソーシャル・ワーカー、ボランティアなどがそのプロジェクトごとに加わっていく。それらがゆるやかにつながり、まち全体に広がっているような印象を受ける。
このようなことを可能にする彼らは組織をどう成り立たせているのだろう。

———私たちの団体はNPOみたいなものです。活動のために、毎年150万ユーロ集めています。ヨーロッパレベル、国レベル、州レベル、ローカルなレベル、いろんなレベルでのプロジェクトに助成金がありますから、それに応募しています。
毎年、トリノとアレッサンドリアの大きな銀行が50万ユーロ、我々の活動にお金を出してくれています。銀行がそれだけの支援をしてくれるのは、自分たちのメリットだけで仕事をしているんじゃなくて、市や警察、行政などとかなり仕事をしていますから、その信頼感があって、我々の活動が評価されているんだろうと思います。

行政や住民たちからの信頼。2章、3章でもふれたように、ファビオさんたちは時間をかけて、人々との信頼関係を築いてきた。地域で活動するには何よりもその関係性が大切で、信頼が信頼を生むことにつながっていく。
なかでも、ファビオさんたちが厚い信頼を得てきたのは、移民などの住宅問題に関する仕事だ。

———家がない人の家を探すとか、追い出されてしまう人に新しい家を見つけるとか、それは常に大きな問題で、空き家とのマッチングを行ったり、市民の不要な家具を集めて必要な人に渡すこともしています。なかなか進まないこともあるので、特に冬の寒い時期などは、警察に家のない人のリストを渡して、早急に進めてもらうよう、働きかけたりもします。
移民としてやってくると、まず身元を証明するものがなかったりする。そうすると家が見つけられず、住所がないとアイデンティティカードがもらえなかったりします。アイデンティティカードがあると医療を受けられる保険証みたいなカードがもらえるんですけど、それももらえない。そういう人には、地区の家の住所を貸してあげるっていうこともしています。
その他、移民全体のお世話をしていますが、特に移民の人たちが奴隷のように働かされたり、売春の世界に引き込まれたりするので、そこから救いだす作業もしています。_W1A3055-2

家が見つかったという報告を受け、自分のことのように喜ぶ

地区の家のあるエリアはイスラム文化圏でもある / 最近アレッサンドリアに来た移民から家が見つかったという報告を受け、喜ぶファビオさん

ファビオさんたちは、移民にかぎらず、アレッサンドリアに住むどんな人も助けようとする。まちにいるホームレス全員をケアする一方、麻薬中毒者のケア専門のセンターも開設した。また、賭博に陥ってしまった人の家族を救う仕事もしている。麻薬専門のセンターは別団体(社会的共同体「アリーチェ(Alice)」)との共同事業であるなど、かかわる度合いは仕事によって異なるが、まさしく「どんな人も」取りこぼさない。

———いろんなテーマがありますけれど、全てに共通している3つのテーマがあります。
1つは個人個人に対するリスペクトと尊厳。2つめは、地区の人たちが住んでいる環境を守るということ。3つめは、そこに住んでいる人たちの連帯感をつくるということです。

ファビオさんやスタッフたちはそのテーマを共有し、それぞれが実践している。家がない人に住宅を見つけるのも地区の環境を守ることにつながるし、広場プロジェクトなどは住民の連帯感が大きくかかわっている。
そして、人の尊厳を守ることにあたって例外はない。たとえば麻薬中毒者のためのセンターでも、麻薬をやめなさいとは決して言わない。彼らが生きていけることを前提として、相談に応じて薬物に関する知識を提供し、感染を防ぐために衛生的な注射器を与える。差別はせず、そこにやってくる人たちが自分で判断し、自分で選択するのを助ける役割だ。

———どんなことであれ、絶対に「絶対いけない」とは言いません。
僕らに助けられる人たちは、上から判断されていないっていうのは感じるんだと思う。僕らはその人を無理に変えようとはしないし、変えられるとも思っていない。本人が変える気があるんだったら助けてあげるよっていうスタンスでいるので、そのことをみんな敏感に感じ取ってくれているのでしょう。
ボランティア活動などにおいては、イタリアもそうですし、外国でも国際支援もそうですけど「俺はこうやってこうしたらいいと思う。だから言うことを聞け」というふうに、助けるほうが主体になりすぎることが多いです。国際支援だと西欧側が「助けてほしいんだったらうちのいうようにやりなさい」って。でも、現場の人たちの主体性を考慮しないと、それはなかなかうまくいかないと思います。

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センターは「ドロップイン」する場所。月曜から金曜まで、午前中3時間は誰が来てもいいし、朝ご飯も出す(火曜は午後4時まで)。リーダーはフェデリコさん。ファビオさんにとって地区の家の頼もしい若手メンバーでもある。スタッフたちとは細かなことまで共有して、薬物の知識を供するにあたっても工夫を重ねる