アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#142
2025.03

社会を変えるデザイン

2 アートプロダクトと絵本出版 イタリア トリノ、ミラノ
2)精神病者に学ぶ ラボラトリオ・ザンザーラ2

ジャンルカさんたちがザンザーラを始めたのは2010年のこと。大きな組織から、小さな組織を立ち上げて独立したのだった。

———ここには80年代に別の組織があって、元々は精神病の人たちをケアするためのコオペラティーヴァ(共同組合的な組織)だったんです。140人ぐらいの大きな組織でしたが、その中でアーティスティックなことをやっていたのは我々4人だけでした。この組織で知的障がい者のためのプロジェクトのコンペに応募して、勝ったんです。98年のことでした。それから張り子のラボなどを始めたんですが、そのとき、自分たちの活動に「ラボラトリオ・ザンザーラ」と名前をつけました。
2010年に元々の組織は閉鎖されたので、2010年7月、「ラボラトリオ・ザンザーラ」を表に出して独立しました。精神病の人たちも多少残っていて、彼らは泊まりでしたが、知的障がいの人たちは通いで、というラボができて、だんだんかたちが見えてきました。

背景を説明すると、イタリアには精神病院がない。1978年に「バザーリア法」が公布されてから精神病院の閉鎖が始まり、1999年にはイタリア全土で閉じられた。それによって、行き場がなくなる精神病者も少なからずいて、彼らを人間的に受けいれるための場所が各地にもうけられたのだった。
精神の病を持っていても、同じ社会の一員として分け隔てしない。イタリア社会の姿勢がザンザーラにも反映されている。

———精神病の人たちの想像力がどんなかたちで出てくるのかにとても関心があったので、それはすごく吸収しました。張り子の商品は元の組織で既によく使われていた技法で、自分もここに来て習いました。最初に精神病の方と一緒に作ったときは、けっこうインパクトが強いわけです。ちょっとドキドキしながらやっていたけれど、一対一で話せるようになっていきました。
精神病者のひとりにアントニーノさんって人がいた。言葉を書く天才で、彼から出てくるのは詩的で哲学的なアフォリズムなんですけど、それを取り出していました。もう亡くなってしまいましたが。自分にとってここの利用者、特にアントニーノさんは大事な先生です。

今のザンザーラは知的障がい者が通って利用する施設だが、その成り立ちには以前の利用者である精神病者の存在がかかわっていた。コミュニケーションをはかり、彼らに学んでいくことで、ザンザーラも育っていった。

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アントニーノさんは言葉だけでなく、ドローイングも描いた。ザンザーラにとって大きな存在だから、壁画などはすべて彼の作品にしている。言葉もお守りのようにある

工房の光景。どこをとってもきれいに整理されている

工房の光景。どこをとってもきれいに整理されている