5)建物をケアし、人をケアする
さまざまな集いの場として使われていることも、下鴨ロンドの特徴だ。その企画にはシェアメイトの多様性が反映されている。写真史家の戸田昌子さんが主催する「写真史を学ぶ京都ゼミ」を皮切りに、「自分で本をつくる会」や映画好きのメンバーが主催する上映会、海外に出かけたシェアメイトによるスライド会、ご近所向けのフリーマーケットなどだ。
なかでも西村二架さんは下鴨ロンドに場としての可能性を感じ、参加したシェアメイトだ。西村さんはメンタルヘルスに関する執筆や講師をなりわいとし、哲学読書会など、集いの場の運営に携わっている。下鴨ロンドでは、「任意団体あわひ」の運営メンバーとして「休む人のためのカフェ」を2ヵ月に1回ほど開催している。
———内面的なことを話しやすい場が必要だと常々感じていて、この場所ならできるのではとシェアメイトになりました。実際に使ってみると住宅だから適度に生活感があり、歴史や人の営みを感じられる。そんな空間だからこそ人をリラックスさせてくれるのかなと、あらためて場の力を感じます。
本間さんは、西村さんをはじめとするケア領域の専門家が下鴨ロンドに関わることを歓迎している。建物を直すことにもケアの考え方が有効だと考えているからだ。下鴨ロンドでは建物の設計思想やこれまでの使われ方が尊重され、建物をケアするように段階的に改修が進められている。そしてその改修には失われた洋館や銭湯からレスキューした床板や建具、家具なども活用されるなど、建物の歴史や時間が複層的に重ねられている。
———古い建物を直すには、時間がかかります。少しずつ、建物の特徴や魅力を尊重しながら直していくということと、「ユマニチュード」のような優しさを奪わないケア手法は近いのではないかと思うんです。
ユマニチュードとは、フランス語で「人間らしさを取り戻す」を意味するケア技法だ。下鴨ロンドにおけるケアには、2つの意味が込められている。1つは建物をケアするように、手入れをしていくこと。もう1つは建物のケアをしたり、この場所を訪ねたりすることを通じて、心地よい交流ややすらぎ、達成感などがもたらされ、人がケアされることだ。
個人では背負い切れずに失われていく文化遺産は数多い。建物を愛する人々が共同し、自律的に場を育む下鴨ロンドの取り組みは、建物を活用するためのひとつのモデルになるのかもしれない。
note:https://note.com/shimogamo_rondo/
ライター、編集者。ぽむ企画主宰。京都大学大学院地球環境学堂技術補佐員。雑誌やウェブメディアで建築やまちづくりに関する記事を企画・編集・執筆。京都・浄土寺でシェアスペースCoffice(コフィス)運営。編著作に『空き家の手帖』(学芸出版社)、『ほっとかない郊外』(大阪公立大学共同出版会)など。https://pomu.tv/
写真家。1989年生まれ。大阪市在住。 写真館に勤務後、独立。ドキュメントを中心にデザイン、美術、雑誌等の撮影を行う。
1992年鳥取県生まれ。京都の編集プロダクションにて書籍や雑誌、フリーペーパーなどさまざまな媒体の編集・執筆に携わる。退職後は書店で働く傍らフリーランスの編集者・ライターとして独立。約3年のポーランド滞在を経て、2020年より滋賀県大津市在住。
文筆家、編集者。東京にて出版社勤務の後、ロンドン滞在を経て2000年から京都在住。書籍や雑誌の執筆・編集を中心に、アトリエ「月ノ座」を主宰し、展示やイベント、文章表現や編集、製本のワークショップなども行う。編著に『辻村史朗』(imura art+books)『標本の本–京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)限定部数のアートブック『book ladder』など、著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など多数。2012年から2020年まで京都造形芸術大学専任教員。