4)運営はフラットに 皆で自治し、文化を育む
大工仕事や清掃作業に積極的にコミットするシェアメイトは少なくない。野瀬晃平さんも建物の整備に深く関わる一人だ。建築を専攻する大学院生で、下鴨ロンドの一室に暮らしながら管理人を担当する。業務には共用部の清掃やゴミ出し、日用品の補充に加え、訪問者が来たら建物内や周辺を案内したりも含まれる。営繕チームのメンバーでもあり、最近は雨漏りの応急処置やエアコンの設置などの大工仕事も担う。
———屋根はなぜこの形なのか、壁はどのようにつくられているのかなど、実際に建物を修繕してみることでその仕組みについて深く考えることができました。それは座学では得られなかった感覚で、そこに自分の手を通じて迫っていく楽しさを知りました。また、ここには子どもから60歳を超える方までさまざまな方が来られます。ホストとしてご対応した流れから一緒に食事をすることになったり、海外の方ならば銭湯にお連れしたりすることもありました。これまでの大学生活の中では考えもしなかった不思議な状況ですが、お互いに敬意を払いつつも近い距離感でフラットに関わることのできるこの場所だから起きているのかなと思います。
フラットさは、下鴨ロンドにおいて重要なキーワードなのだろう。様々な世代のシェアメイトたちから作業ボランティアの学生まで混ざりあって共同作業をし、ひとつの食卓を囲むと自ずとフラットな交流が生まれ、社会的属性がリセットされる感覚になれるという。
野瀬さんはシェアメイトと同じ額の会費を払い、その会費を家賃代わりに格安で住む場所を確保。暮らしながら管理人業務を担うという変則的な契約でこの場所に関わってきた。しかし「想定以上の貢献度がある」とシェアメイトの意見が一致し、2024年10月から会費が無料に変更された。
こうしたルールは、月1回の会議を軸とするシェアメイト同士の意見交換でブラッシュアップされる。合意形成のあり方もフラットだ。
この合意形成のあり方は、ひとつの建物を複数者でシェアするには有効な手法といえそうだ。コモンズ論で知られるE. オストロムは共的資源を持続的に利用する上での成功条件のひとつに、権利をシェアする人がルールの修正に参画できることを挙げており、下鴨ロンドの合意形成のあり方と重なる。
このような自律的な合意形成ができていることには、京都に備わる自治文化の恩恵もあると本間さんは述べる。
———京都は都市でありながら自治が根付いている地域なので、ひとつの場を共同で使う文化が備わっています。そのこともフラットな場の運営を可能たらしめている要素かもしれません。
京都では他地域に先がけて住民自治組織「番組」を単位に小学校が設立され、その一部の建設が市民の寄付による浄財でまかなわれるなど、自治の歴史が備わっている。このように組織のあり方を地域性にあわせることも、無理なく場を運営するコツのひとつかもしれない。