6)解き放ち、ととのえる
すでに回を重ねた9回目の授業でも、初めは生徒たちは戸惑っているように見えた。それも当然だ。こんなにも自由な表現をする場面は、ふだんの授業はもちろん日常生活のなかでもそうそうないだろうから。「正解なんてない」というのは今やどこでも聞かれる言葉だけれど、こんなにも本気で「正解」の呪縛から解き放とうとしてくれる大人はなかなかいない。
そんな生徒たちのこわばりが、授業が進むにつれ徐々にほぐれていくようすも感じられた。瀬戸さんの真摯かつほがらかな語りかけはもちろんのこと、Otographyというツールが助けになった部分も大きいだろう。しかしそれでも、硬い殻がいきなり破られるようなことはない。長年かけて固められてきた殻は、少しずつ、行きつ戻りつしながら脱いでいくしかないのだろう。瀬戸さんは、その過程に長い時間をかけて寄り添う。
———この夏も、高知のときの教え子がうちに泊まりにきてくれました。人に関わるというのは、人の人生に干渉していくということ。いまだに、僕が関わったことが良かったのか間違っていたのかは、僕のなかでは全然答えは出ていないです。でも、教え子たちに再会すると「マサさんに出会ってなかったら、今の大学に行って学ぶなんてことは絶対してなかった。町の大人の言う通りにしてたと思う」っておしなべて言うんですよ。全員が全員満足するものっていうのはないんだけれど、でも、僕は目の前で生きようとしている存在に対して環境を整えていきたいから、それが少しでもできているならすごくよかったなと思います。
瀬戸さんの言う「育つ環境をととのえる」とは、子どもたちのためだけに向けられた言葉ではない。瀬戸さんの思いは、子どもも、大人も、さらに言えば他の生き物や植物にも注がれている。
授業の翌日、わたしたちは瀬戸さんとSOMAが今注力している「山結び」に参加した。福津市にある宮地山をフィールドにした活動だ。次号では、そのレポートを通して「育つ環境を整える」とはどういうことか、さらに詳しく紐解いていきたい。
https://www.nposoma.org/
ライター、編集者。1991年鹿児島県生まれ、
1984年生まれ、京都市在住。写真家、1児の母。暮らしの中で起こるできごとをもとに、現代の民話が編まれたらどうなるのかをテーマに写真と文章を組み合わせた展示や朗読、スライドショーなどを発表。2009年 littlemoreBCCKS写真集公募展にて大賞・審査員賞受賞(川内倫子氏選)2011年写真集「ヨウルのラップ」(リトルモア)を出版。
文筆家、編集者。東京にて出版社勤務の後、ロンドン滞在を経て2000年から京都在住。書籍や雑誌の執筆・編集を中心に、アトリエ「月ノ座」を主宰し、展示やイベント、文章表現や編集、製本のワークショップなども行う。編著に『辻村史朗』(imura art+books)『標本の本–京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)限定部数のアートブック『book ladder』など、著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など多数。2012年から2020年まで京都造形芸術大学専任教員。