5)「ただ、みる」ことができるように 高校での授業2
続いては、「Otography(オトグラフィ)」というカードを使ったワーク。マンガの効果音のようなスタイルでオノマトペが一つずつ書かれたカードだ。
瀬戸:このカードは「ホロホロ」。ホロホロってどんな感じ?
生徒A:涙。
瀬戸:ホロホロこぼれる涙ね。涙って、ポロポロって言うとすごく粒がはっきりしたものなんだけど、ホロホロだといろんな方向に飛んでいく感じがするよね。みんなのなかにすでに音といろんな感覚が紐づいている。面白いよね。
生徒たちは裏返されたカードのなかからそれぞれランダムに3枚を引く。
瀬戸:まずはそのカードをよく観察してみて。どんな場面や感情を自分は感じるのか。小さいころを思い出すようなカードだったかもしれないし、現状を表すようなカードだったかもしれないし、こういう未来だったらいいなって思わせるカードだったかもしれない。それじゃ表せないよって思うかもしれないけど、3枚のカードを過去・現在・未来で並べてみてください。
真剣に考え込みながら、カードを見つめたり入れ替えたりする生徒たち。
瀬戸:どう?「そーっ」「グイグイ」「ズキューン」か。どういうイメージを持った?
生徒B:自分の人生がどうだったかなって思ったときに、昔は静かで「そーっ」という感じで、今はみんなでワイワイしてて「グイグイ」。消去法で未来は「ズキューン」。
瀬戸:「ズキューン」っていうのはどういう未来なの?
生徒B:人の心に刺さることがなにかしらできたらなって。
瀬戸:いいね。ありがとうございます。じゃあ次、どうかな?
生徒C:過去が「ガバッ」。これを見たときに、ものが落ちたり、ものとものが衝撃を与えあったりするイメージを持ったので、今日の朝バスでバッグを落としたのを思い出して。次にこれは押し込まれるようなイメージを持ったので、夏休みの宿題が終わってなくて押し込まれている自分の状態。今日、今から雨が降りそうだなって思ったので未来が「ポツポツ」。
瀬戸:ありがとう。時間軸の捉え方がすでに違うね。さっきの彼は結構長めに年単位でとっていたけど、彼女は今日1日。おもしろいね。
あとで瀬戸さんに「過去・現在・未来という枠をつくったのはなぜ?」と聞くと、「べつに過去・現在・未来でなくても、わたし・あなた・わたしたちでも何でもよかったんです」という意外な答え。
———音って意味付けはできても、それ自体に意味はないんですよ。でも、自分の意図していないところでいろんなものに結びついていっている。僕はそれを観察することが自己の観察につながっていると思っていて。何か一つの観点(今回であれば過去・現在・未来)を入れることで、その音と結びついている自分でも気づいていないネットワークに気づくわけです。それが自分自身のケアにつながっていく。
「観察力育成講座」は、一つの決まった観察方法を教える講座ではない。「『ただ見る』ができることが非常に重要」と瀬戸さんは強調する。
———固定された観察方法を知ると、その観察方法の外側のものが見えにくくなる。僕にとってそれは観察ではない。でも、世に言われる観察というのは、おそらく見たいものを見るための観察なんですよね。それをやらされていると、誰かがつくった環境にからめとられていってしまう。子どもたちにそうなってほしくはないんです。