アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#124
2023.09

千年に点を打つ 土のデザイン

3 焼きもの×福祉×場 千年の先へ
1)「滑っ子」がひらいた「集い場」TSUNE ZUNE1

「やきもの散歩道」の南端に建つ、黒塗りの簡素な建物。白の木枠の窓とのコントラストがモダンで、外階段やエントランスの石組みなどに味わいがある。「Café TSUNE ZUNE(常々)」(以下、TSUNE ZUNE)は、この建物にあるカフェとイベントスペースだ。店主は片岡忍さん。2階に上がると、目の前にL字型のカフェスペースがあって、その奥で片岡さんが穏やかに立ち働いている。その右手には、広々とした空間。むき出しの梁や柱に、素朴な温かさが宿る。

片岡さんは、常滑生まれ、常滑育ちの「滑っ子」だ。20代後半から数年間、東京にいたこともあったが、常滑に戻ってきて、2014年にTSUNE ZUNEを始めた。

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片岡忍さん

———陶研(常滑陶芸研究所)の卒業生で、焼きものを勉強していたんですけど、途中であんまり向いていないなって思いました。でも、常滑で仕事したい、なんかやれたらいいな、と。
常滑は生まれた場所だし、家族もいるし、知っている人も多いし。ここは通学路だったから、小さい頃からの知り合いもいます。

TSUNE ZUNEの入り口には、古い木の看板が掲げられている。
「山秋製陶所」
片岡さんの祖父と父は盆栽鉢の作家で、「山秋の盆栽鉢」は世界的にも知られてきた。TSUNE ZUNEのある建物は、祖父の時代に盆栽鉢の出荷を行っていた場所だという。

———いきなりガチガチのカフェやります、みたいな感じではなくて、ちょっとお茶を出すことの延長みたいに始めました。カフェがやりたくて、というよりは、空間が生きたらいいな、と。ただ、それだといつもイベントをやっていないといけないし、そのときはまだ、いろんな作家さんと知り合いではなくて。
ネットワークが広がったのはお店をやってからです。知り合いも増えるし、来てくれるので。

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大勢の人が集まるようになったのは、「トコナメハブトーク」というイベントを開くようになってから。建築家、研究者、デザイナーなど、全国からゲストを招き、常滑内外の人たちが参加する。コロナ禍の前まで、4年間で20回ほどは開催した。主なファシリテーターはTSUNE ZUNEのリノベーションを手がけた建築家で水野製陶園ラボの水野太史さん。水野さんも「滑っ子」だ。

———トコナメハブトークがTSUNE ZUNEのイベントスペースの幅を広げてくれました。前半はゲストのふだんの仕事の成果を聞いて、後半は一緒におしゃべりするんですね。最初は地元の人の話を聞こうとしていたんですけど、水野さんの知り合いが常滑に来るタイミングでお声がけして企画が決まることが多く、毎月やっているようなときもあれば、半年空くときもあって。そこにあるものを共有する、水野さんが「まかないめし」「おすそわけ」って表現するんですけど、ゲストも参加者も思考を持ち寄って分け合う、そんなイベントです。

TSUNE ZUNEがオープンした年に常滑に移住した高橋さんも、毎回のようにこのトークに参加してきた。

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高橋孝治さん

———サロンというか文化的なトークイベントって、肩ひじ張らずにふだん着で来られるようなものはなかなかないじゃないですか。ここでは、太史(水野)くんのファシリテーションが敷居を下げてくれていて。オーディエンスが参加しやすい空気感をつくってくれるというか。太史くんや忍さんが聞きたいゲストの話をみんなで聞ける。まさに「おすそわけ」ですね。

「トコナメハブトーク」は無料のイベントでもある。まず自分たちが楽しいことを企画して、興味がある人はどうぞ、と「おすそわけ」する。毎回、多くの人が常滑内外から集まったという。ローカルイベントだが、外に向かってひらかれてもいる。
そのオープンでおおらかなありかたは「滑っ子」気質もあってのことだろうか。

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倉庫跡をそのまま生かしたイベントスペース。約60人が入れる