5)歴史を再編集し、令和の風を吹かせる
丸よ小泉商店2
急須の新ブランド「chanoma」は、高橋さんがデザインし、総合プロデュースを丸よが行う、丸よのオリジナルとして始まった。「お茶の間は、空間であり時間である」というコンセプトのもと、2021年10月にシリーズ1を、続いて2023年6月にシリーズ2を打ち出した。
現代の空間に合う、やわらかな白や黒、赤の色と、癖のないかたちが揃うシリーズ1は、使いやすく合わせやすい、スタンダードな茶器。一方、シリーズ2は、ニュアンスに富む色と遊び心のあるかたちで作家を打ち出した、いわば趣味性の高いシリーズである。
———1は茶器事始めみたいな、使いやすさをポイントに湯のみや湯冷まし、急須も容量を合わせる感じで、2は作家さんたちとの掛け合いで、もう少し嗜好品的です。2は海外に積極的に持っていくということも踏まえて組み立てました。(高橋さん)
———1は常滑の職人技とデザインの掛け算。2は作家性とデザインの掛け算だと私は思っている。作家って個人で完結する仕事だって本人も周りも思っているんだけど、時代の要請を考えると、作家の仕事に対してもデザイナーが積極的に、あるいは作家がデザイナーと積極的に組んで、より普遍的で価値の高いものをつくっていくべきだと。そのひとつの具現化になっていると私は見ています。(一さん)
chanomaのもとにあるのは、これまで常滑でつくられてきた急須だ。
丸よの2階は急須ギャラリーで、フロア全体が常滑急須で埋めつくされている。安政時代から現代まで、作家物から量産品まで、その豊富さに圧倒される。
———これが先人が築き上げた、成熟した常滑急須の全貌と言っていいと思うんですね。ここには、令和の風を吹かせる要素が散りばめられています。デザインするときはそれを再編集しながら、うまく引用してパズルを組み合わせているような感じです。(高橋さん)
現場にかかわる岩附さんは、シリーズ1と2には、それぞれ画期的なポイントがあったと自負している。1のポイントは「ユニバーサルなわかりやすさ」だ。
———1についていえば、業界では初めてサイズで白泥・朱泥・黒泥ですべて同じ値段で、モジュールで値段が上がっていくというコンセプトのつくり方をしました。
白泥・朱泥・黒泥では焼成の手間が違いますし、土によっても値段が全然違う。でも、若い子たちやスタンダードを最初に使う方たちは、同じサイズなら同じ値段で欲しい。現場では全然わからなかったことですね。
そういうことをふまえて、これまでは適当に「これは小さい」「これは二人用」などと号数で考えていたところを、誰にでもわかりやすいコンセプトにしたのはとてもよかったと思っています。
シリーズ2については「ロングラン」と「自由さ」だという。
———事業を継承してロングランさせていくために、若手といわれる40代の名工たちを選びました。もうひとつは、同じ土で合わせなくていいっていう自由さも提案したくて。いろんな楽しみ方が何通りもできるよっていうのがシリーズ2です。(岩附さん)
過去にヒントを得たデザインを、名工がかたちづくる。使い手は、今の感覚で、自由に組み合わせられる。丸よはそれを問屋として、わかりやすく提案する。その過程はデザインなくして成立しないものでもあった。
———デザインってものをデザインするだけじゃないんですよ。モジュールやスタッキングとか、あるいは仕組みだったり使い方だったり、ものの形だけじゃないものをデザインしてもらいたいって思っていて、高橋さんに頼んだらそれが実現できて、chanomaでグッドデザイン賞を取ってくれた(2022グッドフォーカス賞 [地域社会デザイン])。
そういうことも全部含めてデザインだと、現場ではわかっているひとがまだ全然少なくて。だから、彼が産地にいてくれるのはすごくありがたいです。