アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#121
2023.06

ゴミを「自分ごと」化する

一人ひとりの自分ごとを重ね合わせる 高知で服部雄一郎さんに聞く
2)等身大の実践 南インドでの学び

南インドのエコビレッジ「オーロヴィル」は自然豊かな環境のなかにあり、ソーラー発電だけで営まれている食堂、トイレはコンポストトイレしかないゲストハウス、廃材でできたオーブンで美味しいパンを焼く店など、世界中からさまざまな人々が集って、自由な意思でクリエイティビティを発揮していた。その光景を目の当たりにした時、「本当に好きなことをして楽しく生きていってもいいんだ、自分もこんなふうに暮らしてみたい」という強い思いが、服部さんの胸に湧き上がってきたという。

———僕はじつは葉山でもバークレーにいたときも、田舎暮らしをする気は全然なくて、帰国後は大学院で学んだことを生かして国際機関か環境団体に就職するのかなと思っていました。それが、自然に近い環境で面白い取り組みをしている各国から集まった人たちの営みを見たらすごく楽しそうで。こういう楽しみを味わないまま歳をとっちゃうのはもったいないなと。田舎に行けばすごく簡単にできる面白そうなことがいっぱいありそうだと思えたんです。

意外にも、服部さんは自分自身を日本人的だと言い、周りを見ながら行動するタイプで、大胆な行動をすることにも躊躇があるという。しかしエコビレッジを見て、ゴミ問題を議論・分析するばかりではなく、自分自身が暮らしを実践しながら伝えていくという、それまで考えたこともなかった可能性に気づき、迷いは消えた。服部さんの考える「サステイナブルな暮らし」は、必ずしも地球環境を憂う「意識の高い」生活ではない。環境を大切に思いつつも、ストレスを溜め込まず、自分自身にとっても地球にとっても持続可能な地点を探す。地球の上に生きる実感を増すことで、心地よくなるような暮らしだ。高知の明るい日差しとおおらかな土地柄にその兆しが見えたのだろうか。2014年9月、縁もゆかりもなかったという高知県香美市に一家で移住し、思い描く暮らしに向かって試行錯誤する日々が始まった。