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アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#121
2023.06

ゴミを「自分ごと」化する

一人ひとりの自分ごとを重ね合わせる 高知で服部雄一郎さんに聞く
1)理科実験のように 生活のなかで知る自然な循環

服部さんがゴミのことを意識し始めたのは29歳のとき。町役場に転職し、仕事でゴミと向き合わざるを得なくなったことからだった。それまでは、国際交流基金の舞台芸術交流担当として、国内外を飛び回りながら働く、絵に描いたような都会人。大学時代の同級生だった麻子さんと結婚し、ふたりとも美味しいものが好きで、オーガニックの宅配や生協で食材を選んではいたものの環境への視点はない「利己的なオーガニック」だったと振り返る。子どもが生まれたのを機に、ふたりは都心に近く海や山もあり、地元にも近い神奈川県葉山町に移住した。そこで手仕事をする友人たちに出会い、より生活に根差した働き方を求め始めたころ、たまたま自転車で10分の距離にある町役場の求人に採用され、図らずもゴミの担当課に配属された。この偶然が、服部さんがゴミに対する意識を変えるきっかけとなった。

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服部雄一郎さん

———正直なところ、コンポストの存在も知りませんでしたが、職場にあったパンフレットに、生ゴミが微生物の力で水と二酸化炭素にほとんど完全に分解されてしまう。あとは堆肥になってメンテナンス費用もかからないと書いてあったので、理科実験のノリでやってみました。その過程ではうじゃうじゃ虫が湧いてぎょっとしたこともありましたが、何も知らなかったので好奇心でいろいろ試行錯誤しながらできました。生ゴミがなくなることでゴミの量が驚くほど減って、匂いも発生しないのでゴミ出しも楽ですし、生活のなかでダイナミックな自然な循環を感じられるという意味でも面白いですね。

ゴミが減ることで、生活が変わり、人生が変わる。そのことに可能性を感じた服部さんは、さらなる探究のため妻の麻子さんにも相談してゼロウェイスト(ゴミゼロ活動)が盛んなカリフォルニア州バークレーに、家族連れで留学することを決めた。大学院で環境政策の専門的なスキルを学びながら、まち全体がゼロウェイストに対してポジティブなことに励まされたという。日本では感じたことがない寛容さ、完璧でなかろうが堂々とゴミゼロに取り組む人々の前向きで鷹揚な姿勢は、その後の服部さんの活動の指針になった。大学院修了後は、ゼロウェイストNGOの短期プロジェクトで働くために南インドに滞在し、壮絶な環境汚染やスラム街と隣り合わせのなか、家族とともに半年を過ごした。そして最大の転機となったのが任期の終わりに訪れたエコビレッジ(持続可能を追求する小さなコミュニティ)への小旅行だった。