アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#119
2023.04

ゴミを「自分ごと」化する

1 ゴミ拾いをエンターテインメントに スポGOMIの実践
3)ルールをつくって、ターゲットにする

ゴミがターゲットになる楽しさ、それはスポGOMIの原点でもある。30歳で起業し、生まれ育った九州を離れて東京でひたすら仕事に励み、自分を失いそうになっていたという馬見塚さん。その時、自分の時間を取り戻そうと始めた朝のランニングが、スポGOMIが生まれるきっかけとなった。

———当時、横浜のみなとみらいに住んでいて、ビルががんがん立ち始めたころで。昨日まで日が当たってすごく緑がきれいだった場所が、突然ビルの影になってそこにゴミがあって、これちょっとおかしいよなと。まちのためになにかやろうとまでは思っていませんでしたが、自分が走る道が綺麗になったら気持ちいいな、くらいの感じでゴミ拾いを始めました。最初の1個を拾うまでは、恥ずかしいとか偽善者っぽいなとか、なかなか手が伸びなかったんですけど、ただ1個拾えば綺麗になるだけのことじゃんと思って拾ってみたら、気持ちよかったんです。

砂浜に吸殻を見つけて、焚き火を連想した子がいたように、ゴミの背景を想像し、自分の暮らしとの接点を見出すことは、誰もができそうな身近なゴミへのアプローチだ。もともと体を動かすことが好きだった馬見塚さんは、そこにスポーツという要素を加え、実際に手を伸ばしてゴミを拾うというアクションにつなげた。

———次はあそこのゴミを拾ってみよう、素早く拾ってみようとか、拾う時大腿筋を意識しようとか、スポーツ的なルールを持ってゴミと向き合ったら楽しくなってきた。それがスポGOMIの原点です。これなら僕と同じ感覚でゴミと向き合ってくれる人って多分いるんじゃないかな、1回やってみたいなっていう気になった。もちろんひとりではできません。当時交流のあった大学の学生さんたちに協力してもらって、意見を聞きながらルールの精度を上げて、いまの形に近づけていきました。

とはいえ、スポGOMIが市民権を得るまでには大きな壁があった。公共の場で前例のないことを行う時には苦労がつきものだ。遊びなのかゴミ拾いなのかわからない、スポーツを路上でやるのは危ない、怪我人が出たら責任が取れないと、断られつづけた。それでもあきらめず、やっとの思いで開催した第1回大会での参加者の発言が、馬見塚さんのスポGOMIに対する思いを確かなものにした。

———最初の大会は渋谷公会堂でやりたかったんです。2008年の洞爺湖の環境サミットに合わせて開催して、NHKに取材してもらえたら話題になると思って。でも何度申請に行っても断られたので、当時グリーンバードというゴミ拾いの団体を率いていた長谷部健さん(現渋谷区長)のところに相談に行ったら、行政に掛け合ってくださって、開催することができました。取材もしつこくお願いして、近いからカメラ1台だけなら、といって来てくださって。その時優勝した子たちにインタビュアーが「なんで今回参加したの?」と尋ねると「スポーツだから」「仲間と協力して競いあえるから」と。そのキーワードを聞いていて、この活動を続けていったら、ちょっと面白いことが起こるかもしれない、と思いました。

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計量し、重さで競うだけでは体力勝負となってしまい、子どもや高齢者が参加しづらい。競技性を失わず、誰もが公平に参加できるためのルールとして、拾った内容物ごとに点数が加算されるのも大きな特徴だ / この日集まったゴミは全部で30Kg。写真は総量のうち3分の2ほど