4)旅の記憶を五感に残す
Bed and Craftの活動の周辺では、パン屋やカフェなど飲食店の開業も増えてきている。Bed and Craftでは、「泊食分離」と考え、これまでは飲食店は地元のお店との連携を重視してきた。しかし、宿泊客が増えるにつれ、飲食店のニーズはますます高まり、不足している状態だという。山川さんもBed and Craftラウンジの奥に「nomi」を立ち上げた。蔵を改装した店で、木彫刻職人が削った木くずを用いた燻製料理や、地域ならではの旬の食材で、食体験でも井波が楽しめる。新たにできる宿泊施設の一角にも、飲食店が入る予定だ。
———コーヒーの焙煎所が世界最狭広場の一角にできる予定です。「ビールはコミュニティ」とオーナーが謳う地元のブルワリーも。井波産のビールが飲めるようになります。そこと提携して、Bed and Craftでもチェックインのときに空き瓶をお渡しして、そのブルワリーに、ビールを注ぎに行けるようにしたい。もちろんお部屋で楽しんでいただいてもいいし、そのまま公園に行ってもいい。ビール片手にまちを楽しむのもいいなって思いますね。
また、この3月に現在のラウンジ棟のとなりに「旅と香りラウンジ」という新施設をオープンする。ラウンジの下にアロマの蒸留施設と研究所をつくり、訪れた人が自分で香りをブレンドできるようになる。
———まちの香りって、ありますよね。井波の場合はクスノキの香りです。工房に入ると、すごく感じますから。まちを巡って、まちのイメージでアロマをブレンドして持って帰ってもらう、という仕組みを考えています。
コロナ禍で、地方で東京の人はお断りみたいな感じの時期があった。そのころ、離れていても、まちとつながれるものはなにかないかとずっと考えていたんです。クスノキのディフューザー(香りを拡散するためのアイテム)をつくれるんじゃないかって思いついて。
香りを嗅ぐと、記憶が蘇ることがありますよね。この匂いであのまちを思い出す、みたいな。ちょっと遠く離れていても井波のことを思い出していただけるような関係性を香りでつくれないかなと考えています。
嗅覚という感覚をとおして体験を深め、井波と宿泊者の関係性も深めようとしているのだという。まちを訪れたあと、来訪者はクスノキの香りに、井波を思い出すようになる。木彫刻工房を訪れたときの体験が、自然と懐かしく思い出されるちいさなアイテムだ。