2)「雲」としてのBed and Craft
Bed and Craftの入り口となるラウンジに、「雲」が主役の作品が置かれていることは象徴的だ。Bed and Craft自体が、井波というまちや、伝統産業を中心と考えたときに、それを支える「雲」のような存在を目指しているように見えてくる。
現在、山川さんが企画・設計や運営を手がけるBed and Craftが関連する施設は、2016年のスタートから約7年で、6棟の宿と飲食店やギャラリーを合わせて9つに広がっている。だが、もともと施設を広げる計画があったわけではない。井波に暮らし、働くなかで、井波の良さをより引き立てていくために「足りないと感じるものを足してきた」と山川さんは言う。
———最近、スタートアップ企業の社長さんとかとつながりができて、「山川さんの出口戦略はなんですか?」とか聞かれるけど、出口なんてない(笑)! 「フランチャイズ化するんですか?」とも聞かれますが、Bed and Craftをコピーして他のまちでやってもあまり意味がない。
僕はこのまちに住んでいるから、課題が見えてきたり、こういう人が来てくれたらと構想できたりする。暮らしていくと、まちの解像度が上がるというか。暮らしの主体者として、お客様をお迎えしていくなかで、「買い物をしたいよな」とか「ご飯を食べたいよね」とか、まちになかった機能を一つひとつ見つけて、足していきました。
その軌跡は、井波のまちという欄間に「雲」を一つひとつ彫り込み、重ねていくようでもある。この広がりを支える、ユニークな仕組みのひとつが「オーナーシップ制」だ。Bed and Craftの宿は、まちのファンになった人がオーナーになっている。彼らを巻き込みながら、まちに新たな機能を加え、まちをより魅力的に変えている。
———自分が買っているわけじゃないんです。実際は、井波のファンになった方たちがオーナーになってくれている。2棟目のtaëを建てるときに、ちょうど上海にいたときのパートナーが日本に別荘が欲しいと言っていたんです。でも、別荘って不良債権ですよね。年間2週間くらいしか使わない。「それなら、Bed and Craftの2棟目として、貸別荘のようなかたちでやるのはどう?」と提案した。それがオーナーシップ制に変わっていきました。
オーナーには、空き家となった古民家を購入・改修する初期費用を負担してもらい、山川さんらが宿の企画・設計から運営までワンストップで提供する。オーナーは売上から費用を回収でき、無料宿泊権も得られる。行政の補助金は一切使っていない。
———海外が長かったからか、僕が無知だったからか。行政から補助金が出ることを知らなかったんです(笑)。だから普通に自分たちでやった。でも、taëができたときに、このまちを好きになって、お金を出していただける方がいるのって、すごく健全な関係性だなと思ったんです。
山川さんらの活動に共感するまちのファンがオーナーになり、Bed and Craftの施設は年々増えている。