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アネモメトリ -風の手帖-

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#113
2022.10

食と農の循環をつくりなおす

地域に「食の主権」を確立する 徳島・神山町3
1)食で社会を変える試み

1回目の記事で触れた通り、フードハブは地方創生の流れの中で策定された神山町の創生戦略「まちを将来世代につなぐプロジェクト(以下、つなプロ)」から立ち上がった官民共同の事業だ。つなプロを策定するにあたり、神山町は「働き盛りで、かつ将来世代に近い子育て年齢前後の人々」約30名によるワーキンググループをつくり、約半年をかけて議論を行った。白桃さんと真鍋さんが出会ったのもこのワーキンググループである。

白桃さんは神山で代々農業を営む家で生まれ育ち、当時は神山町役場職員で農業係を担当しており、「耕せない田んぼを何とかしてもらえないだろうか」という相談が寄せられていた。また、父・茂さんは、高齢の農家から田んぼを受託するファームサービスを行っていたが、受託面積は年々増えて限界を迎えつつあった。人の手が入らなくなって荒れた田畑は、元に戻すのに何年もかかる。受け継がれてきた知恵や技術も失われてしまう。そうなる前に、若い就農者に受け継げないだろうかと白桃さんは考えていた。

一方、真鍋さんは自身が所属する株式会社モノサスが、神山町にサテライトオフィスを設立する準備のために、2014年に家族とともに移住していた。真鍋さんは、空間デザインを手がける会社に在籍していた頃から、アメリカのベイエリアの料理人などとともに日本各地の生産者を訪ねて交流を図ってきた。レストランの枠組みを使って「食べることでいかに社会問題を考えられるか」という視点で活動する料理人とつきあううちに、「食べることには、この社会の全員が関われる。食には政治を変えるほどの力がある」と実感。「デザインよりも食の方がパワフルに社会を変えられる」という手応えを得ていたという。

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真鍋太一さん(左)と白桃薫さん(右)

アメリカでは、「主に地元の名前が特定できる生産者たちの食品を、集約、保存、流通、そしてマーケティングすることで彼らの能力を強化し、卸売業者や小売り、制度的な需要に積極的に応えるビジネス、または組織」を「地域のFood Hub」という*。移住した神山で、農業が身近にある暮らしを送るうちに、真鍋さんは「アメリカのFood Hubの考え方をここで実践できないだろか」と考えはじめていた。
地域のFood Hub指導書

前述のワーキンググループで、真鍋さんが「神山にアメリカのFood Hubのようなしくみをつくりたい」と提案したとき、白桃さんが「たとえ役場を辞めてでもやりたい」と応えたことから、フードハブは具体化した。

フードハブ設立時に真鍋さんが描いた「神山の農業を食べて支える」設計図

フードハブ設立時に真鍋さんが描いた「神山の農業を食べて支える」設計図