3)一気に、垂直に。5つの部門でできたこと
社会的農業、食堂・かま屋とかまパン&ストア、加工品の開発、食育活動。フードハブは、これらの部門を一気に立ち上げた。一般的に考えれば、まずは農業からスタートして、収穫が安定してから加工部門、食堂部門……と順次立ち上げるほうが安全だ。しかし真鍋さんは、「しんどかったけど、一気に垂直に立ち上げたから挫折しなかったと思う」と話す。
———本当にものすごく大変だったし、今でも大変ではあります。「飲食店を1店舗、パン屋を1軒つくるだけでも大変なのに!」と友人たちにも呆れられましたが、正直に言うと「わかんないからやっちゃった!」みたいなところもありました。それでも、同時に立ち上げたから広がった可能性は確実にあります。たとえば、白桃家で70年継いできた在来種の小麦があることを知って、パンチームが「その小麦でパンをつくりたい」と言うと、農業チームは「採算が合わないな」と思いながらも育てるわけです。ところが、収穫した小麦がパンになったり、料理になったりすると「なるほど」と納得して収量を上げていくわけです。
同じ目的を共有する会社のチーム同士だからこそ、新しい挑戦をするために協力を求めやすく、ものごとを前へ前へと進めることができる。もちろん、農業チームには「いいものをたくさんつくって売りたい」という気持ちがある。「モヤモヤすることはあるけれど、農業だけではない法人であることに、自分たちの良さはあると思う」と白桃さんは言う。
———農業からはじめると、農業だけで完結してしまいやすい。フードハブは、法人として5つの部門を同時にやっているからこそ面白いと思うんです。最近はこうしたあり方に興味をもって、フードハブを訪ねてくれる新規就農希望者が増えています。
今、フードハブは各部門がそれぞれ黒字化して、順調に成長しはじめている。人も植物もごちゃまぜに育てるほうが強く育つという。フードハブも5部門を同時に立ち上げたからこそ、互いに育ちあって強い組織になりつつあるのかもしれない。ただ、中山間地域の農業を持続可能にする取り組みのモデルとして、「他地域に展開するのは個別特殊解だから、難しいのではないか」と考えている。真鍋さんは「横展開する可能性があるとしたら、今年から神山町に業務委託されている学校給食かもしれない」と言う。
———給食は社会システムなので、衛生管理や栄養管理、メニューと調理指示書など、オペレーションがきっちり決まっています。フードハブがやっている200〜500食くらいのスケールであれば、「7割は定式化されたメニュー、2〜3割が地域に合わせたメニュー」で調理指示書をつくって、機材とセットでコンテンツレベルのパッケージを組めるのではないかと考えています。そのあたりは、フードハブの食育部門から独立したNPO法人まちの食農教育と一緒に体系化していきたいと思っています。