アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#106
2022.03

子どもが育つ、大人も育つ

4 子どもと大人と、みんなで学び合うために 京都市・にわにわ(前編)
1)「プラスアルファ」にある面白み

「にわにわ」があるのは、鴨川の上を東西にかかる五条大橋のそば、木造の家屋がびっしり並び、下町的な風情が残る細い路地の一角だ。2階建ての黒いこぎれいな建物で、一般住宅風の外観だが、1階の窓には「KUMON(くもん、公文式学習)」のポスターが貼られている。窓からなかをのぞくと、それらしき案内や張り紙があるのも見える。
「ここがにわにわ?」と、ちょっと不思議な気持ちになりながら正面で待っていると、赤いフリースジャケットを着た男性が、赤いバイクに乗ってやってきた。小山田徹さんだ。

———ごめんごめん、遅くなっちゃって……。受験直前の息子と、勉強のことで話していたら、出るのがギリギリになってしまいました。

人の好さそうな笑顔でそう言って、バイクを止めるとすぐに鍵を開けてくれた。

なかに入ると、細長い屋内には小さな机と椅子が複数並び、子どもが十数人程度は同時に勉強できる空間が広がっている。2階もまた、真っ白な壁に沿ってカウンターのような木製の机が据え付けられて、スツールが並ぶ。確かに、くもんの教室らしいつくりになっている。

暖房をつけて、少し温まるのを待ったあと、小山田さんに聞いた。「ここは、メインはくもんの教室なのですか?」。すると、うん、そうやね、といって、その経緯を話してくれた。

小山田徹さん

小山田徹さん

———妻(美穂子さん)が以前、この近くで喫茶店をやっていて、5、6年前にその場所で、彼女がくもん教室を始めたんです。
1階は飲食店の設えのままで2階を教室にしていたので、自然と1階が待合みたいになって、教室の前後に、お母さんたち同士で話してたり、置いていた本を子どもが読んだりして過ごしていくようになりました。僕は、そこでいつも、くもん教室のスタッフたちの賄いをつくっていたので、いつしか、料理をしながらお母さんたちとあれこれ話すようになって。その空間が楽しくて、くもん教室にプラスアルファの部分をつくることの面白みを見出したんです。

そして1年ほど前に場所を現在の地へ移し、構想を具体化した。くもん教室でありながらも「プラスアルファ」の部分を意識的に広げ、その全体を「にわにわ」という名の空間にした。子どもと大人がともに集まり、さまざまな活動ができる拠点であり、くもん教室も他の活動も、そのなかに内包されるイメージだ。ちなみに「にわ」とは元来、神社の境内などの神域のことで、人が集まってさまざまなことをする場所を指す言葉だという。

———コロナ禍もあって、まだ活動は少ししかできていないけれど、これからはここが、子どもたちが当たり前のように集まる場所にしたい。それをサポートする大人たちのチームができて、とか、そんな空間にこれからしていけたらと思っています。

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一見すると、民家のようであるにわにわ。京都らしい風情あるエリアだが、比較的静かな通りにある