アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#105
2022.02

子どもが育つ、大人も育つ

3 「学び合う」という実験 秋田県五城目町・ものかたり
1)さまざまな語りが生まれる場

秋田市から北に約30キロ、車で40分ほどのところに五城目町はある。人口8700人ほど(2021年4月)の小さなまちだ。

訪れたのは11月下旬のこと。雪もちらつく寒い日の夕方で、人の姿はまばらで寂しげな印象をまず受けた。が、よく見ていくと、建物のなかに静かに灯る小さな明かりに気づかされたり、黙々と体を動かして働く人の姿があったりする。そして、通りの街灯がともると、立ち並ぶ針葉樹と相まって、どこか冬の北欧を想像させるような雰囲気になっていった。そんな一角に、「ものかたり」はあった。

小熊さんがものかたりをオープンしたのは2016年のことである。アートギャラリーではあるものの、いわゆるホワイトキューブといった空間ではない。蔵つきの古い建物を改修してつくられた場で、大きな窓を通して見える内部には、その日、畳の敷かれた和の空間に襖や屏風が並んでいた。普段は外から絵本が並んでいるのが見えるようになっているが、それは、ギャラリーと聞くと入りづらいかもしれないから、より人が入りやすいようにするためだという。

彼はこの場所を使って、アートの展示やイベントを行う以外にさまざまな取り組みを行ってきた。たとえば、旧式の家電類などから楽器をつくり「音楽以前の音」を感じてもらうというワークショップや、絵本をつくるアートキャンプ。また、県内の美術大学の授業と連携した研究発表的な企画では、地元のさまざまな人の言葉を集めて展示し、新たなまちの姿を浮き上がらせようと試みた。不定期で、妻の美奈子さんによる絵本の朗読会も行われている。

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空間設計のテーマは「足すのではなく、引き算で」。もとある建物の良さをそのまま活かすことにした。設計は小熊さんの芸大生時代の友人でもある、京都のデザイン会社UMMM / ふすまのディテールなど細かい部分まで凝った建物。ものかたり以前は、日用品を売るお店だったり、地酒を流通させるための倉庫だったりと、さまざまに使われてきた / 小熊さんと妻の美奈子さん。展示などの企画は小熊さんを中心に、ギャラリー内で販売する絵本のセレクトは美奈子さんが行うなど、二人三脚で運営している