アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#103
2021.12

森づくりとともに 飛生芸術祭という夢を重ねる

2 「境界」を体感し、超えていくこと 北海道・白老町
4)地域と深く向き合い、国境も超える

飛生の森の一角に、《宝》という作品がある。旧アイヌ民族博物館の企画展のために、アフンルパルのある海岸に流れついた廃材や流木でつくったものだという。

海岸の砂浜を実際に歩いてみると、廃材や流木だけでなく、大陸から流れついた韓国語や中国語が書かれたペットボトルなどの容器がいくつも転がっていた。この海の向こうには、いま・こことは違う、どこかがあることがまざまざと感じさせられる。どこかずっと遠くまで行ける気もしてくる。

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小助川裕康、国松希根太《宝舟 2017》

2018年から、飛生アートコミュニティーは、沖縄県北部の大宜味村で開催されている《やんばるアートフェスティバル》に参加している。また、コロナ禍で2020年に延期され、開催時期は未定となっているが、韓国の済州島でひらかれる企画展に向けてチームが結成され、参加を控えている。ちょうど11月に、その企画展のチームが《やんばるアートフェスティバル2021-2022》に参加し、新作を制作することが発表されたところだ。

地域と深く向き合う取り組みは、地域や国境を超えた、新たなつながりにも発展しつつある。

最終回となる次号では、飛生アートコミュニティーの創始者で、北海道を代表する彫刻家の松明日香さんに話を訊いた。35年の歩みから、飛生の「これから」に触れてみたい。

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「THE SNOWFLAKES from TOBIU ART COMMUNITY」は、2020年に韓国の済州島にて開催予定だった企画展のため、飛生アートコミュニティーで結成された制作チーム。メンバーは発案者の奈良美智、国松希根太、小助川裕康、奥山三彩の4人。韓国での企画展はコロナにより現在も延期されているが、制作過程を追ったドキュメンタリー作品「THE SNOWFLAKES」(映像:高張直樹)が「飛生芸術祭 2021」にて公開された。「やんばるアートフェスティバル2021-2022」では新作のインスタレーション作品《結晶》を制作予定

(番外編)白老・登別のあいだ

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倶多楽湖。アヨロラボラトリーのメンバーはこの湖面を踏破した / ポンアヨロ川の水が白老と登別のあいだを旅する / 火山灰が固まった奇岩が並ぶアヨロ海岸 / 汽水域という「あいだ」もあった / 芸術祭のメンバーや、かかわる人たちの憩いの場となっているアヨロ温泉。極楽に近い?

取材・文:末澤寧史(すえざわ・やすふみ)
ノンフィクションライター・編集者。Yahoo!ニュース 特集で「『僕らは同じ夢を見る』—— 北海道、小さな森の芸術祭の10年」を取材・執筆。1981年、札幌生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。出版社勤務を経て2019年に独立。2021年に出版社の株式会社どく社を仲間と立ち上げ、代表取締役に就任。絵本作家・小林豊のもとで表現や絵本づくりを学び、『海峡のまちのハリル』(三輪舎、小林豊/絵)を創作。共著に『わたしと「平成」』(フィルムアート社)ほか多数。本のカバーと表紙のデザインギャップを楽しむ「本のヌード展」主宰。

写真:高橋 宗正(たかはし・むねまさ)
1980年生まれ。写真家。『スカイフィッシュ』(2010)、『津波、写真、それから』(2014)、『石をつむ』(2015)、『Birds on the Heads / Bodies in the Dark』(2016)。2010年、AKAAKAにて個展「スカイフィッシュ」を開催。2002年、「キヤノン写真新世紀」優秀賞を写真ユニットSABAにて受賞。2008年、「littlemoreBCCKS第1回写真集公募展」リトルモア賞受賞。

編集:村松美賀子(むらまつ・みかこ)
編集と執筆。出版社勤務の後、ロンドン滞在を経て2000年から京都在住。書籍や雑誌の編集・執筆を中心に、「月ノ座」名義で展示やイベント、文章表現や編集のワークショップ主宰など。編著に『標本の本-京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)や限定部数のアートブック『book ladder』など、著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など多数。2012年から2020年まで京都造形芸術大学専任教員。