アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#101
2021.10

子どもが育つ、大人も育つ

2 よりよい「居場所」をつくり続ける 福岡市・いふくまち保育園(後編)
2)一人ひとりと関係性を育み、みんなの「居場所」をつくる

そもそも、酒井さんが2009年に株式会社を立ち上げ、写真館アルバスをひらいたのは、「公民館のように、多くの人がかかわり続けることができる、ひらかれた居場所をつくること」が目的だったという。きっかけは、九州大学の子どもの創造性を引き出す場づくりのプロジェクトに参加したこと。そこで得た経験を活かして、まちづくりにかかわりたい、子どもとかかわりながら人が交流できるスペースをつくりたい——そんな思いで福岡市内に拠点を借りた。

だが、拠点を持つと、維持するためには資金が必要となる。そのために、とった形態が「写真館」だったと酒井さんは振り返る。

———恥ずかしながら、当時は場を持つことは商売を続けることだと思いいたらず、事業計画も十二分でないまま2階建ての物件を借りました。当時まずやろうとしていた写真の現像代が、1枚35円……。これでは、家賃も払えません。2階はギャラリーにするつもりでしたが、商売として成り立つように、家族写真が撮影できるスタジオにしました。それで、ようやく場を維持できる見通しが立ったんです。だから、最初は必要に迫られて写真館をはじめたわけです。
行き当たりばったりですよね。でも、結果として、写真館を運営していくなかで、人の居場所となる場をつくるときの大切な要素が見えてきました。「場をひらくこと」「関係を育むこと」「(その場や時間の)価値を創造すること」「教育・福祉を中心に考えること」です。これをわたしたちは会社の理念にもしています。

アルバスの写真館は、写真を「撮ること」だけが目的ではないという。

———家族写真の撮影は、その家族が戻ってきたくなる場所にする、ということを大切にしています。例えば、だから撮影の時間を家族の大切な思い出にしてもらうため、ご家族と一緒に内緒でサプライズを準備して、喜んでもらうお手伝いをしたり。写真撮影を手段として、記憶に残る時間をつくることが大事だと思っています。

写真の現像ひとつをとっても、アルバスではコミュニケーションツールとなる。
現像は、RGBという光の三原色をコンピューター上で調整して色の補正が行われるが、普通は写真屋にお任せだ。一方、アルバスでは、その補正作業をお客さんの思い出をヒアリングしながら一緒に行っていく。「どこに行ってきたの?」「どんな気持ちで撮ったの?」「何があったの?」——。そんな問いを投げかけながら、記憶に合った色で、思い出を形にしていく。

———写真はポジティブな気持ちで撮ることが多いので、楽しかった出来事を共有してもらい、共感しながら現像します。そうやって、訪れてくれた一人ひとりと関係性をつくっていくことが、少しでも、まちづくりにもつながっていくと思ってやってきました。

まちは、一人ひとりの人が集まってできている。人と人の関係性をつむぎ、よりよい時を生み出していくことは、まちづくりにもつながっていく。酒井さんにとっては、その手段として写真があり、また写真だけが手段である必要はない。

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酒井さんが経営する写真館アルバス。「写真屋の特徴を生かしたまちづくりを念頭に置いて、やってきた」から、保育園をつくったときも、写真館のユーザーが集まってきてくれた。写真館をやることで、場をつくるうえでの大切な要素が見えてきたという(写真提供:株式会社アルバス)