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#269

研究ノート デザインという暗黙知
― 早川克美

研究ノート デザインという暗黙知

(2018.05.27公開)

今日は、今、考えていることの研究ノートというか、メモを表明しようと思う。

「暗黙知」とはハンガリーの哲学者マイケル・ポランニーが提唱した概念で、主観的で言語化することができない知識、言語化して説明可能な知識(形式知)に対し、言語化できない、または、たとえ言語化しても肝要なことを伝えようがない知識のことだ。「暗黙知」の例としては「自転車の乗り方」がある。つまり、自転車を乗りこなすことはできるけれど、その乗り方について、どのように操作するのか、明示的に言葉で語ることはできない、というものである。個人がもつ知識には、言葉で表現できる部分と、言葉で表現できない部分とがあり、前者よりも後者のほうが多くを占めている。ポランニーはこの後者を「暗黙知」と呼んだ。

デザイナーの思考パタンも、暗黙知の代表的な一つであろう。一定のプロセスを踏みながらも、ある時「神が降りてきた!」ようなひらめきでデザインが生み出される。そんな風に考えられてきた。実際は、あれこれ試行錯誤し、経験や知識や記憶の引き出しから最適解を再編集してデザインは生み出されているのだが、それは体得した者にとって、言語化する必要のない暗黙知だったわけだ。
そんなデザイナーの思考パタンから生み出された「デザイン思考」は、企業・組織にイノベーションを起こす方法として注目されている。「デザイナーの暗黙知であった思考プロセスを形式知として汎用化したフォーマットは、広義なデザインを、グループワークという共同体による共有を実現し、協働によって成立させる思考ツールへと社会に定着させることに寄与したのである。

しかしながら、思考プロセスは形式知として共有することは可能となったが、狭義なデザイン(色やかたちの創造=クリエイティブ)のプロセスは依然として暗黙知の域を出ていない。これをわかりやすく形式知に転化して伝えられないか。具体的には、自分が手がけてきたサインデザインを軸に、「わかりやすさ」「イメージ」を伝えるためのデザイン方策をパタン(もしくはキーワード)で構成していこうと考えている。サインデザインとは、「わかりやすさ」を実現するために、空間・場に環境イメージとしての意味を与えることである。探し発見するという人が昔から行ってきた活動(環境を読み解く力)を支援する、情報コミュニケーション環境を実現する為のデザイン行為であると考えている。ケビン・リンチは「環境のイメージとは個々の人間が物理的外界に対して抱いている総合的な心象のことである。」と述べている。環境のイメージは、現在の知覚と過去の経験の両者から生まれ、情報を解釈して行動を導くために用いられる。この「情報の解釈」についての視座を多くの人が共有できる方策として提示したい。実空間のアクセシビリティのためのデザインを説きながら、その他のデザインにも通じる普遍的な形式知が示すことを目標とする。