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アネモメトリ -風の手帖-

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#357

オフラインの効能
― 野村朋弘

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6月から毎週どこかへ出張している。学務の場合はもちろん、研究のための調査も多い。
そうした際少しでも時間があればしていることがある。街を歩くこと、そして古本屋に寄ることと珈琲屋を探すことである。
今日的には「日本の古本屋」というサイトがあり、全国の古本屋の在庫が調べられ購入することも多いが、その地域でしか見つからないもの・入手出来ないものもある。
特にwebでの在庫検索は、目的に直接当たれる利便性があるものの、その周辺というのはなかなか探しづらいものだ。調べたいことが明確に定まっていないときには、ブラウジングすることは大きなヒントにもなりうる。
9月のシルバーウィークは札幌に出張した。学部生の有志による学習会にお呼ばれしたのである。地域の文化資産を調べる一事例としてフィールドワークをするので参加してほしいと要請を受けてのものだ。そうした要請はできる限り受けることにしている。
飛行機で前入りし、現地を先に歩いてみて、更に情報収集として札幌の本屋を巡った。その中で久々に寄ったのが弘南堂書店さんである。北海道大学の周辺には多くの古本屋さんがある。いや、あったというべきか。ずいぶんと減ってしまったようだが、弘南堂さんは幸いにして営業を続けられている。
目当ての本を取り置きしてもらっており、その他、在庫検索にはなかなか引っかからない絵葉書や「枚」モノを店頭で物色する。学習会にも役立ちそうな絵葉書を見つけて購入した。

購入ついでにお店の方と立ち話をした際、「最新の札幌の古本屋マップはありますか」と尋ねたところ店舗型は減少しており、また店舗がなくオンラインだけで古本屋を営むひとが増えたのでマップは造らなくなったのだと聞いた。
幸いにして最後の版である2014年のものをいただいた。

私が所属する芸術教養学科では、卒業研究として地域の文化資産を取り上げ、評価報告書を纏めることを課している。地域の文化資産とは様々で建徳や街並み、美術・工芸品もあるが、例えばこうした古本屋文化もまた地域の大切な資産である。
「近頃の大学生にとって古本を買うという文化はなくなってしまった」と言われてしまったが、何も博物館・資料館・大学だけが、アーカイブをすればいいというものではない。地域のことを探るには、何よりも地域で執筆された書籍や絵葉書、案内などが必要である。特に絵葉書や枚モノは、見過ごされがちで、オンライン上ではなかなか見つけづらいが、地域の店舗、オフラインでこそ思わぬ出会いがあり、研究のヒントにもなる。

新型コロナウイルスの感染拡大で、オフラインの学習会や学修相談会は減少してしまったが、学びとはオンラインのみで完結するものではない。完全オンラインのカリキュラムはあくまで学び易さのためであり、それこそスマートフォンからあふれ出る学びを深めることによって卒業研究は豊かなものとなる。
弘南堂さんでの話と、対面での学習会に参加して改めてオフラインの効能を感じた出張であった。