アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

最新記事 編集部から新しい情報をご紹介。

手のひらのデザイン 身近なモノのかたち、つくりかた、使いかたを考える。

このページをシェア Twitter facebook
#66

ガラスボウルの水入れ
― 植田志保

(2018.06.05公開)

色は生きている” というのが、わたしの生きるうえでの重要な事柄で、とにかく、体験するすべての確認は、色になっていく。

たとえば
そなたのまばゆいゆで卵色/水が凍ってもクロールできる気品色/枝豆の声はホトトギス色/ちょうどいい分量の「おはよう」色/朝よりずっと前の あさの色/胸をなでおろす ライラックの16:00色/不安とつくる 巡り色/さびしいと思っていたせかいに抱きしめられた色/織りなされる ふうふ色/パンジーのつばさよでんぐり返る色

色も人も植物も魚も土も、みんなが同じに等しく生きているという幼い頃からの観念は、歳を重ねるとしっかり抜け落ち、くっきりそれぞれの境目が現れていきそうなものなのに、どうしてもなくならなかった。今思うと、きっとそもそもがおめでたいことなのだった。
兵庫県宍粟市という見渡す限りの山、ふもとにはお素麺「揖保乃糸」がつくられるうつくしい川の流れるところで生まれ育ったおかげさまなのか。祖父母の「重喜」「満寿子」という、おめでたさ満開の名前のおかげさま、なのか。

なにに支えられてかいつも全力で、日々のなかにささやかに映る色の表情を受信しては、叫んでいたようなあの頃。わたしへ母が出会わせてくれたのは、艶々とまばゆい24色の固形パレットとスイミング、それからおままごと。

毎日毎日毎日、固形パレットを眺めては、そこに居るイメージを映すように、その絵具のひとつがまた別のひとつと出会い生まれて広がっていく水彩の様子に、わななく喜びをて。週に4回、近所のスイミングスクールに通い、25mプールを何度も往復、全身全霊をかけて泳ぎ。田んぼから採ってきた玉ねぎ、人参、オクラ等のお野菜をまじまじと見つめては、七輪で調理をし、リカちゃん人形に食べてもらい、小屋を秘密基地にして大規模なおままごとを繰り広げる。

いま。普段、アトリエで制作をおこなう様子を改めてつめると、あの頃、心身をめいっぱい使っておこなっていたこととまるで同じなんだと気づく。
主なメンバーをご紹介すると、24色の固形パレット、水彩絵具、水、筆、顔彩といった作品自身になっていくメンバーに加えて、格別にわたしをうっとりさせてくれるのは、水入れにしているガラスボウル。これは、お料理番組などでもよく目にする、透明なあのガラスボウル。作業するテーブルに、いくつかのガラスボウルを点在させる。水をたっぷり入れて、ふくらむ想像がはち切れんばかりになった瞬間、筆を水入れに潜らせ、筆先の水分量を調整する。その折、筆とガラスボウルの口が触れ、音が鳴る。その音が自分の体内の水分に響いてくると、色を受け、それから色自身になって想像するところへと一緒に泳いでいく。色の表情と声ようなものに、うん、うん、と頷きながら対話を重ねる。みんなは仲間で、いっしょに日々の自問自答の一歩一歩の繰り返しから学んだことが、一手一手になっていくよう。
色たちが、様々な姿で登場してしばらくすると、わたしは色自身からすくっ! と立ち上がり、例えばプールからでるような面持ちで’’集合の合図’’をかける。’’今回は絵だから、いちど集合してもらいたい’’というふうに対話をする。
そうしてひとつの絵に到着することができる。
せかいは美しく、醜く、愛しく、悲しいことだと教えてくれる。それは、日々をとても面白くしてくれる。

そんなふう色が生きている”としか思えないという、ある種の欠落ともいえる日々が調和へとむかうことができる表現は、わたしの営みです。
そして、ガラスボウルは、ガラスボウルがくれる音は、「〜かもしれない」という「If」の可能性を届けてくれる大切なチャイムみたいに凛々しく、頼もしい存在。

「流れる水は濁らない」という諺にあるように、ガラスボウルの水が、または体内の水がいつも巡り流れているように、今日も今日とて、日々発見する色たちのことを見つめて、目もこころもおおいに開いて、手を動かし足を踏み出し考え思い、めいっぱいこの時季を、周りのものものといっしょに生きてきたい次第。
0102



03

植田志保(うえだ・しほ)

美術作家1985兵庫県生まれ
色に立脚した表現活動を軸に、「色」の有機的な動きを捉えた作品群 『色のすること』や、対話を通し、個人の記憶や意識に潜む「色」を顕在化させる即興描画 ‘In a Flowerscape’ をライフワークとしておこなうなど、多岐にわたる。
http://shiho-ueda.com

Shiho Ueda

Fine artist
Shiho Ueda was born in Hyogo prefecture in 1985.
She has created a series of artworks titled “What colors do”, which reflects her capturing organic movements of ‘color’.
Also as her life’s work, she has performed improvised drawings titled “In a Flowerscape”, which emerges ‘color’ with botanical motifs from personal memory and consciousness of a client through a dialog .
http://shiho-ueda.com


● information
東京都豊島区  ウイロードの再生に挑戦します
http://www.city.toshima.lg.jp/436/machizukuri/doro/weroad2.html

34102789_1725344370836678_6790336654956560384_nunnamed