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アネモメトリ -風の手帖-

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白雪山善巧寺(はくせつざんぜんぎょうじ)
― 富山県黒部市

富山県黒部市に位置する北陸新幹線の停車駅「黒部宇奈月温泉駅」から宇奈月温泉方面に車で5分程走ると、「白雪山善巧寺」というお寺があります。約550年前に始まった浄土真宗本願寺派のお寺で、境内に入るとすぐ右手に、樹齢500年以上といわれる大イチョウの木が象徴的に佇んでいます。

善巧寺は先代より、落語会の開催や地元の小学生を対象とした児童劇団の創設など、地域に開かれた様々な文化活動を行ってきました。平成18年には「お寺座ライブ」という、お寺の本堂を主会場として様々なジャンルのアーティストを招いた音楽イベントが初めて行われ、県内外から多くの人々が集まりました。現在まで毎年開催されており、第8回ではライブの終わりに僧侶達が華葩(けは)を散らしながら読経する場面もありました。「華葩」とは花びらの形をした紙片で、法要などで散華として使用されるものです。ライトアップされた本堂の中で、幾重にも重なりあう読経の声に包まれながら舞い散る華葩は、荘厳で圧倒される程美しく、読経が始まると共に姿勢を正し、手を合わせる若者の姿が多く見られました。
お寺座ライブ開始の時期と同じくして動き始めたのが、本堂内陣の天井画新調計画です。これは、平成25年の親鸞聖人750回大遠忌を節目に予定されていた本堂修復事業の一環として実施されたものです。依頼を受けたのは宇奈月町在住日本画家清河恵美さんで、1年半に及ぶ制作期間を経て天井画を完成させました。それは248枚の作品からなり、富山の花木28枚と極楽浄土の鳥(鳳凰と共命鳥)、そして360度パノラマの立山連峰が描かれた極彩色のもので元々あったお寺の色彩と見事に共鳴し、善巧寺に新しい象徴が生まれました。
そして今年、新たな試みとしてOTERA THE EXHIBITIONが開催されました。これは、先述した修復事業によりお寺の渡り廊下やお蔵が修復された事をきっかけに、通常であれば客僧の控室として使用される奥座敷などを開放し、展覧会を開催するというものです。第1回目は同寺の天井画を手がけた清河恵美さんと若手日本画家の平井千香子さんによる2人展で、「共命鳥清河、迦陵頻伽平井(ぐみょうちょうきよかわ、かりょうびんがひらい)」というタイトルのもと行われました。展覧会では住職の雪山俊隆さんから両作家に「仏説阿弥陀経」に説かれる極楽浄土に登場する六鳥のうち、現世には実在しない「共命鳥」(注1)と「迦陵頻伽」(注2)の制作が依頼され、作家はそれを創造し描きました。古くから伝わる物語に新しい解釈が与えられ、新たな命が吹き込まれたようでした。
善巧寺での取り組みは、これまで在り続けた教えや習わしを新しい切り口で提示することによって、現代に生きる私達新鮮なものとして映し出されているといえます。その結果、世代を超えて様々な人がお寺に集い、教えを学び、人に伝えるというサイクルが出来つつあります。「集」という漢字はたくさんの鳥が木に集まる様子を表しているといわれていますが、私達は鳥達が木の上で体を休めるように、安らぎを求めて自然と集まるのではないでしょうか。そして、様々な人と出会い、交流し、現代に生きているのだと思います。善巧寺の活動は私達に自然な形で、生きる喜びに気付かせてくれているのでしょう。

(北島真理子)

「お寺座ライブ」撮影:池尾俊輔

「お寺座ライブ」撮影:池尾俊輔

「天井画」撮影:橋爪清

「天井画」撮影:橋爪清

「OTERA THE EXHIBITION」

「OTERA THE EXHIBITION」

参考

善巧寺 http://www.zengyou.net/
善巧寺オテラ・ザ・エキシビジョン「共命鳥清河、迦陵頻伽平井」パンフレット
住職 雪山俊隆さんのお話(平成28年6月13日)

脚注

(1)身体は一つ、頭は二つに分かれている鳥。ふたつの命が一つに溶け合う世界観を鳥の姿であらわしている。また、「仏本行集経」には、一頭をカルダ、もう一頭をウバカルダと名付け、カルダに憎悪を持ったウバカルダが、毒を飲み共に死んでいく物語が説かれている。

(2)上半身が人、下半身が鳥の姿をしている。殻の中にいる時から鳴き出すとされ、その声はとても美しく、仏の声を形容するのに用いられる。日本では美しい芸者や花魁(おいらん)、美声の芸妓を指してこの名で呼ぶこともあった。善巧寺では本堂の欄間両サイドに描かれている。
−善巧寺オテラ・ザ・エキシビジョン「共命鳥清河、迦陵頻伽平井」パンフレットより−