アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#14
2014.02

ひらかれた、豊かな<場>をつくるために

前編 京都・Social Kitchen
3)3つのプロジェクト

「喫茶はなれ」から出てきたイベントなどのうち、S・Kの立ち上げにつながった企画が3つほどあるという。2007年秋の「4649プロジェクト」、2008年4月の3周年パーティー「暮らし革命」、それにGRL KYOTOである。
「4649プロジェクト」は、hanareメンバーがどう政治に関わるか、そのスタンスがよくわかる取り組みだ。当時、憲法9条を否定する声が高まるなか、「この憲法をなくしたくない」と考えた結果、「海外のひとの協力を得る」というアイデアが出てきた。
具体的には、ステッカーをつくり、海外のひとたちに送って、彼らが理念に賛同できたら、そのステッカーを身近などこかに貼って、写真を撮ってもらう。その写真を日本に送ってもらって、ネットを通じて日本に住む人々が閲覧できるようにしたのである。つまりは“世界に羨ましがられる憲法”であるとを認識することで、この憲法に誇りを持とうという発想だ。
結果、海外の知人友人から、たくさんの写真が集まった。その上映パーティーも盛況で、プロジェクトの手応えはたしかにあった。高橋さんのブログから、再び抜き書きしてみる。

 今から思い返してみると「hanare」が週に1回のプライベートカフェの運営だけではなく、複数のプロジェクトを運営する団体として活動をし始めたのは、このイベントが大きなきっかけになったように思います。また、コアなメンバーだけではなく、いろんな分野の人たちを巻き込みながら、協同してプロジェクトを進めるというスタイルも、この頃から継続しています。

4649プロジェクト
hanareメンバーが中心となり2007年秋に立ち上げた、日本国憲法9条を考える参加型のプロジェクト。若い世代に向けてつくった「4649ステッカー」は世界各地の賛同者によって街角に貼られた。場所はニューヨーク、アムステルダム、バーミンガム、バルセロナ、バンコクなどの海外各都市、日本では関西をはじめ、東京、沖縄など多数。ステッカーを貼った写真は、写真共有サイトの「flickr」で見ることができる。
http://www.flickr.com/photos/4649project/

“パンチのあるユーモラスな表現”を模索して、ヤンキーに辿り着いた

“パンチのあるユーモラスな表現”を模索して、ヤンキーに辿り着いた

このイベントの後、2008年に山崎さんが自ら手を上げ、メンバーに加わったことで、hanareの活動はさらに広がっていった。山崎さんは言う。

———このころのhanareは、今のS・Kに近いようなこと、つまりは社会に対してアートから取り組むプロジェクトを始めよう、という感じだったのですが、どうせやるなら社会活動そのもののイメージを変えて、若いひとにも魅力に感じてもらえる、かっこいい方がいいと思っていましたね。

3周年を前に、「喫茶はなれ」の周年パーティーを盛大に、別の場所でやろうという話が持ち上がった。自分たちの活動は単なる喫茶ではなく、食を中心に生活を通して社会を変えることなのだから、それを広く伝えたいと考えたのだ。
イベントのタイトルは「暮らし革命」とした。アーティストの坂口恭平さん始め、hanareメンバーの尊敬する方たちのトークイベントに、坂口さんのアコースティックライブをメイン企画として、食べ物や飲み物を用意し、有機野菜の販売も行った。
会場には「喫茶はなれ」のお客さん以外もたくさんつめかけ、予想をはるかに上回り、150人以上が集う大盛況となった。いつにもまして多様なありようであった。

暮らし革命
個人の生活から大きな世界情勢までを包括し、芸術的で美しい暮らし方、社会のあり方を考えた、hanareの3周年パーティー。美術家の坂口恭平、高嶺格、映画批評家の廣瀬純、インディペンデントキュレーターの遠藤水城のトークショー、京野菜と手づくり味噌の販売、坂口恭平のライブなど。
2009年4月18日 / アンチョビカフェ(京都市左京区)

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(上)hanareのコンセプトと活動を記した紙を天井から吊るし、お客さんに持ち帰ってもらった(下)遊び心のある食べもののプレゼンテーション

(上)hanareのコンセプトと活動を記した紙を天井から吊るし、お客さんに持ち帰ってもらった(下)遊び心のある食べもののプレゼンテーション

実はこのころすでに、hanareで場所を持ちたい、という話がメンバーのあいだで持ち上がっていた。その話を進めるいっぽうで、メンバーの須川さんの提案により、手がけることになったのがグラフィティリサーチラボ京都、「GRL KYOTO」である。都市で遊ぶことから、街や公共空間を考えるニューヨークのアーティストふたりを京都に呼んで、滞在してもらいながらプロジェクトを行うというものだ。

「4649プロジェクト」や「暮らし革命」で、ひとやまちと関わる手応えを感じていたメンバーは、ひとやまちがよりいっそう面白くなることを確信。全員一致で、ふたりを呼び、プロジェクトを手がけることに決定した。

GRL KYOTO
「グラフィティ・リサーチ・ラボ(GRL)」は、ニューヨークのアーティストであるエヴァン・ロスとジェームス・パウダリーの2人が結成。ストリートアートグとテクノロジーを組み合わせレーザーポインタでビルの壁にグラフィティをするなど、都市で遊ぶことから、街や公共空間を考える、見方を変える活動を続けている。GRL KYOTOはその京都バージョンで、京都市内のさまざまな場所ででハッキングワークショップを展開した。インタビューや写真を掲載したドキュメントブック『GRL KYOTO MAGAZINE—今日のハッキング』も発行。
2009年11月5日〜11月16日 / 京都各所で開催

光で描くL.A.S.E.R Tagや取り外しがすぐに可能なLED Throwieによるグラフィティ。まちを考える画期的な試みとなった

光で描くL.A.S.E.R Tagや取り外しがすぐに可能なLED Throwieによるグラフィティ。まちを考える画期的な試みとなった

———いろんなことやりましたね。彼らの12日間の滞在中、パフォーマンスにワークショップ、レクチャーをやったり、冊子作ったり。映像や関連書籍を集めて図書館作ったり。10日間、ギャラリーでhanareとして喫茶をやって、この期間、集う人たちが自分で学び、考え、行動し、遊び、世界に向けてここから発信できる「基地」にしました。(山崎さん)

客としてやってきたひとたちの自発性に委ねるというのは、今のS・Kにもつながるhanareの基本的な姿勢だと思う。「GRL KYOTO」では、そのことがよりはっきりと打ち出されたのではないだろうか。
そしてまた、hanareとして初めて、大がかりで多様な<場>を手がけたことで、これから自分たちがやるべきことも見えてきた。「場の明確なビジュアルが見えたというか。「GRL KYOTO」のようなことを日常的に行う場所をやりたい、と。それがはっきりとつかめましたね」。(山崎さん)

自分たちの立場や姿勢をを明らかにしたうえで、多くのひとと協同し、市民の自発的な学びや行動の場をつくる。hanareとして活動する日々を積み重ねた先に、S・Kが見えてきたのだった。