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アネモメトリ -風の手帖-

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#62
2018.07

音楽とアートが取り持つ、まちの多層性

広島・尾道 中編
2)音楽とアートとチョコレートのいい関係
——中村真也さんに聞く(2)

ところで中村さん・宮本さん・栗本さんは、DJの友人1名を加えた「ChemiCal Cookers(ケミカルクッカーズ)というポリティカルラップ・グループを組んでおり、チョコレート製造のかたわら音楽活動をしたり、別のヒップホップ・グループを尾道に招いてライブを企画したりもしている。音楽で広がるつながりは尾道を超え、鳥取県大山の「HUT(ヒュッテ)」で行われた細野晴臣氏のライブではオリジナル・パッケージのチョコレートも製作。また、中村さんは移住後、「AIR Onomichi」の三上清仁さん(8月号で紹介)の家に住み込みながらボランティア・スタッフをしていたそうで、現在の「USHIO CHOCOLATL」のパッケージのイラストレーションは当時のボランティア仲間たちに「カカオ」をテーマに描いてもらったものだ。店のホームページにも「カカオ農園さんが一番のアーティスト」と記す中村さんにとって、音楽やアートはどんな存在なのだろうか。

———音楽とアートがひととひとを引き寄せるみたいなことは、あると思います。単に空き家があるというだけでは、ここまでまちが盛り上がっていないと思うんです。僕は「AIR Onomichi」を手伝い始めたころはアートというものがよくわからなかったんですけど、三上さんは空き家に住んでるアーティストが板に落書きしてそこに立てかけたようなものも作品って呼んでいて。自分の視点をどこに置くかだ、自分の視点がそれをアートにするんだ、ってアーティストをすごく大事にするんです。
音楽にしても、尾道のひとたちは自分で企画して、カフェとかお寺を借りて、場所代が発生しない代わりにチケット代を安くできるのでみんなが集まって、たくさんひとが入れば出演者のギャラに回したり。そういう姿を見て、音楽をしてるひとたちも尾道っていいまちだなと感じて移住してきてる。なんていうか、あいまいな存在なんだけどみんなが大事にしていて、それがまちを盛り上げるスピード感につながってる。誰かが何かを始める時のハードルがめっちゃ低いんですよね。僕も尾道じゃなかったら、チョコレート工場をしようなんて思ってないと思います。

 「単に空き家があるというだけでは、ここまでまちが盛り上がっていない」「あいまいな存在なんだけどみんなが大事にしていて、それがまちを盛り上げるスピード感につながってる」という、音楽やアートに対する中村さんの分析が興味深い。まだ名前すらついていない初期衝動のようなものを価値あるものへと育てるには、その是非を安易に判定せずに一定期間見守る環境が必要だ。尾道の人々には、音楽やアートを通して、見守ることへの耐性のようなものが自然と備わっているのかもしれない。スパイスやハーブの香りが爽やかな「アイスカカオミルク」を飲みながら、チョコレート工場の窓の向こうに広がる海を眺めていると、中村さんが初めて尾道にやって来た時に感じた「アッパーなバイブス」に、今まさに包まれている気がした。

店内では、カカオ豆を煮出したシロップをカルダモンやシナモン、八角などで風味づけしミルクで割った「アイスカカオミルク」、チョコレートをつくる際に出る切れ端を使った「冷やしチョコレート」など個性的なテイクアウト・ドリンクも販売。「ChemiCal Cookers」は、店内のアート・ワークを手がけた音楽家のhenlywork氏と料理開拓人の堀田裕介氏が主催する食と音楽のパフォーマンス・イベント「EATBEAT!」にも出演した