アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

手のひらのデザイン 身近なモノのかたち、つくりかた、使いかたを考える。

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#103

手と皮膚
― 吉川貫一 a.k.a 祭の妖精・祭太郎

写真:小牧寿里

今回は手と皮膚を道具として捉え、それについて語る。

私の仕事場、はり・灸・アトリエ祭林堂(まつりんどう)は札幌市の中心部にある原始林浴が気持ちいい円山の麓に位置している。主な仕事は、身体のメンテナンス、絵画制作、パフォーマンスなど。普段の仕事で使う道具は、ディスポーザブル鍼、もぐさ、線香、絵筆、MacBookなど。多分野で活動する理由は気うつりしやすい性分なので興味を分散させて活力を保っていたいから。調子が悪くなると、なんとも言えない違和感のようなものが身体の真ん中あたりにへばりつく。調子を崩しそうになる時は別の仕事をする。手がかりは自分の身体、手や皮膚に聞くこと。些細な変化を聞けるようになると前触れを予感するようになり、自然な形で対処できるようになってきた。というのも今の形の治療院を開くまで、私なりに紆余曲折があった。右に左にフラフラ、流れ気ままにまかせる道すがら、ふと立ち止まり考えた。自分が作る手仕事で日々暮らしていかないと、現状のままでは息苦しいと感じた。楽な呼吸をするため、今まで歩んできた思い出と思い出を筋道でつなぎ合わせ、それを頼りに仕事を作り少しずつ歩んでいくのが性分に合っていると考えた。小さく弱い手綱ではあるが、自分で編んだという強い実感を胸に秘めることでつかんだ技を祭林堂から発信している。一見すると脈絡がない形だとしても、、、。

例えば、身体のメンテナンスをしているとパフォーマンスや絵を描いている時と同じような時間が不思議と流れ出す。うさぎのマスクをかぶり路上で受け身をとる。祭りの妖精・祭太郎に変身して夏フェスを盛り上げる。それらと共通する時空間が、ある瞬間に訪れるのだ。治療の準備が整えばあとは即興のごとく手を動かす。頭、首、背中、腰、足、肩、腕、腹、顔の皮膚、筋肉を感じながらゆっくりと押圧する。指頭で皮膚の緊張を察知し、指腹で皮膚の表面をならしたり、全体の様子を見ながら、手のひらでさすり次の一手を考える。そして要だと思う箇所に鍼をする。緊張が強い箇所だと、ポン! という響きがその箇所、別の箇所で感じられる。特に冷えや熱を感じる場所には灸をすえる。もぐさを左手でつまみ、人差し指を支点にして親指の指腹を左右に動かしながらゴマ粒くらいの大きさに整え、右親指と人差し指でもぐさをつまみ、形が崩れないよう静かに皮膚上におく。右人差し指と中指で挟んだ線香の火をもぐさの頭に近づけ、もぐさが燃え尽きたと同時に、熱が筋肉の奥の方まで入り伝わる。灸の一連の所作は仏さんをつくっているかのようだ。一つ一つ形を確認していく。はりも灸も、その都度、一度きりで使い終わる。そのうちお腹がグルグル動き、グーグーと鳴き始める。皮膚、筋肉、内臓、脳のつながりを感じる時だ。筋肉がほぐれてきたら、自分が感じたことを時に抽象的な言葉に置き換えて話をする。上手く噛み合うと即興治療は冴え渡る。自分の手が相手の皮膚に触れた時、身体の奥底にある、見えない、わからない抽象的な世界を感じることがあり、何事にも代えがたいものがあると同時になんとかしなければと引き締まる思いがこみ上げてくる。他者の痛みや辛さ、苦しさを表に出し整えて楽にする作業は、自己表現の作業と共時性を感じ、いつの間に私の表現行為は土壌として機能し、他者の糧になることを知った。大事なことを気づかせてくれる他者とはできる限り慮る関係でいたい。

そのために心がけていることがある。思い出は執着しないが手放さない。ゆるりと身体のどこかに持ち続けること。つながらないと思っていたことが、一つのきっかけでつながっていく。その時、無駄だったことが光かがやき、影があることを実感する。20年以上、身体に緊張と緩和を人工的に生み出し、10年かけて他者の身体から得た経験を通じて、私は答えのない矛盾の世界を絶えず行き来しながら、見えない、わからないという感受性を養った。ある何かに気がつくことは、生きる喜びと結びつきがあると信じたい。それにはたくさんの時間と経験が必要だったし、これからも同じようにして生きていくと思う。調子が悪くなれば、自然な呼吸になるよう手は身体を整える。点と点を線で結ぶ手と皮膚。身体を労りながら天気のように変化し大地のように生きていこうと思う。

鍼灸師を目指すきっかけは15年以上前、京都でのくらしがあったから。生活、仕事、歴史、芸術、文化をただただ教わりました。そのおかげで自分の手仕事を作っていくと心に決めたから今があります。突然のエッセイ執筆依頼は驚きと嬉しさが込み上げあの時の思い出が甦りました。お世話になった皆様へ、感謝を込めて。

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写真:小牧寿里

写真:小牧寿里


 

写真:小牧寿里

写真:小牧寿里

祭太郎

吉川貫一 a.k.a 祭の妖精・祭太郎

1977 北海道名寄市生まれ
1998   北海道芸術デザイン専門学校 建築デザイン 卒
1999   CAIアートスクール 卒
2010 北海道鍼灸専門学校 卒

1997年、うさぎ耳のマスクを被り固い地面の上で受け身をとる身体パフォーマンスを始める。ギャラリーXY(ハンブルグ、ドイツ)2002年、とかち国際現代アート展デメーテルに参加したことがきっかけで媒介者(祭の妖精)をコンセプトにした祭太郎というキャラクターで表現を始める。RISHIG SUN ROCK FESTIVAL in EZOの道沿いで応援口上パフォーマンスを18年連続行なっている。2007年北都プロレス、リングアナウンサーとして活動開始、2010年より 鍼灸師の免許を取得。北海道鍼灸専門学校臨床センター、主任として5年勤務。2015年、合同会社maturi設立、札幌市内に「未来miraiマッサージ・あんま・指圧・はりきゅう」をオープン。2018年10月札幌市内に「はり・灸・アトリエ 祭林堂(まつりんどう)」を新たにオープン。現在、治療家、美術作家、パフォーマンスなどの活動を行っている。

ダニエル・ジャコビー、荒木悠共同監督が製作した映像作品「マウンテン・プレイン・マウンテン」のナレーションを担当する。この作品は2018年1月「ロッテルダム国際映画祭」にてプレミア上映され、最高賞のタイガーアワードを受賞。5月スイスで開かれた「VIDEOEX」でのグランプリ受賞、6月にはスペイン「FILMADRID国際映画祭」で審査員特別賞を受賞するなど、世界各地の映画祭で高い評価を受けて上映されている。

2018年 ロックバンド怒髪天の楽曲「いいんでないかい音頭RSRver.」振付担当
2019年 怒髪天 楽曲「オトナノススメ~35 愛されSP~」、コーラス参加
2019年 マオイ自由の丘ワイナリー第2回エチケットアワード佳作賞を受賞
2019年 STVテレビ 熱烈ホットサンドにて4年ぶりにサンドウィッチマンと共演。
2019年   NHK北海道「祭太郎・アイヌ鮭祭り考! 鮭が教えるルーツと心」放映

はり・灸・アトリエ 祭林堂 https://www.maturindo.com

 インタビュー
体の声を聞く人に会う、「痛み」との対話で生まれるグルーヴとは。