(2020.11.05公開)
ここ何年か、だいたい冬の景色を描いている。春でも夏でも冬の絵を描いている。
裸の木々、白い息、雪で白くなった屋根、淋しいような懐かしいような冬景色。
私のモチーフはいつも旅から生まれてくる。
今は旅なしでは作品が作れないような気さえしている。
流れていく景色、流れていく時間を見て、また思い出す、描く。その繰り返しをしている。
描くための道具とはなんだろう、と考えてみた。
旅先にアトリエなんてないし筆がなければ鳥の羽がペンになる。
ただ美しい風景が必要だ。
旅に形はないけれど、私にとって一番身近な道具といえるのかもしれない。
私は4人兄弟の末っ子として生まれ、賑やかな家族の中で育った。
小学校の頃、父に「お前は勉強しなくていい、遊んで暮らせ」と言われた。
他の兄弟には厳しく勉強させてきた両親であったが、末っ子の私にはどんな風に育つのか他の方法で試してみたくなったらしい。
もちろん、そんなことが受け入れられない姉や兄からは睨まれ、きつく当たられた。
テストで悪い点数を取ってくると、親の代わりに兄弟から叱られ、勉強を見てくれることもあった(とても厳しい)。
勉強しなくてもいいというのは子供にとってラッキーなことだった。
でも自由というのは少し難しかった。
学校にも家にもルールはあるし、叱られるのは嫌い。
何をどこまでやっていいのか基準が分からずいつも少し不安だった。
頭の中にある空想の世界をどこまで広げて外に出してもいいものかといつも考えていた。
そして年齢を重ねて、誰かに迷惑をかけなければ何をやっても意外と怒られないということが徐々に分かってきた。
旅をするようになったのは大学生の頃から。
アルバイトをしてお金を貯めて夏休みにヨーロッパ旅行にいった。
古い建物や日曜日のマーケット。
目的もなく歩いて素敵だと思うものを探すのが好きだった。
新しい世界に目を大きく開き、脳は一日中忙しく全てが新鮮でわくわくした。
それからずっと旅を続けている。
今はほとんど田舎ばかりを旅する。
田舎を旅するためにそれまで興味がなかった運転免許を取った。
もちろん年中の旅をしているわけではない。
1年に何ヵ月か、1年に2回ほど。
その他の日常は旅を思い出したり、次の旅を考えたりしている。たまに仕事もしている。
10年ほど前から毎年、夏訪れる北欧の島がある。
直径は30kmほどの山のない平らな島。
そこに初めて行った時、見渡す限りの地平線を辿ると景色が繋がっていた。
円の真ん中に立っているような感覚になった。
遠くに見える小さな家や森。
景色が何層にも重なって見える。
忘れられない景色。
私もそんな絵が描けるだろうか。
そんな風にして景色の絵を描き始めた。
ある年、家族が島に遊びにきた。
父が島の景色を見ながら言った言葉。
「ここの景色はお前の絵みたいだ」
私がここの景色を真似しているのだけど、すごく嬉しい言葉をもらったと思った。
私の絵を見た人は私が見た景色を絵を通して頭の中で想像する。
その想像される景色を、私もまた想像する。
そんな空想の世界が私はとても好きだと思う。
景色が旅をしているみたいだなと思うから。
郷間夢野(ごうま・ゆめの)
京都在住
大学卒業後、日本の環境が肌に合わずデンマークへ留学
10年もの間、制作と発表を続けながら日本とデンマークを行き来している
主に旅の風景を水彩画で描く
渡航中、および旅行中は全力だが、日本ではモチベーション低め
冒険好きが止まらず、もう2度も凍った川に落ちている