アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

手のひらのデザイン 身近なモノのかたち、つくりかた、使いかたを考える。

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#73

見えない道具たち
― 佐々木まなび

(2019.01.05公開)

柔らかい鉛筆の芯が、紙の上でねっとりと溶けるとき、指に伝わってくる感触が好きだ。白い紙を見ると白場を崩さずにはいられない。今では生業となっていることは、そんなことからはじまったような気がする。「グラフィックデザイン」はほとんどが平面。「奥行き」を見つけるために、背景には自分なりの物語をつけてゆく。目指す仕上がりは、気配、間、匂が、どこか感じられ、目にした人に伝わること。物理的には不可能なことを追い続けている。
デスクの周りには、一瞬にしてココロ奪われた絵や置物が、私を囲んでいる。パソコンの画面から目を外すと、固くなった頭とココロを刺激してくれる。私にとっての大切な道具は、このものたちからのエネルギーかもしれない。
12年程前、「裏具」というオリジナルの文房具店を、事務所のプロジェクトとして始めた。店の名前をつけて10年後、ようやく立ち上げの時に焦りながら考えたコンセプトがきっかけになったのか、幼い頃から感じていたことや、想像していたことが、ゆっくりと自分の枠の中に集まって来たように思う。そして、自分の惹かれてやまないことを、少しずつコトバにすることが出来るようになってきたのかなとも思う。
店をすることによって、学んだことがたくさんある。並んだ葉書やぽち袋のデザインは少し毒を持たせていて、動物の足だけが見えていたり、ちょっと嫌われ者のカラスやヤモリ、カエルが何処かに隠れていたりする。お客様に、デザインについて少し意味を話した後は思うように想像して心を遊ばせてくださいと言うと、本当に様々な答えが返ってくる。
平面で表現できることの限界を、人の想像力は、いとも簡単に超えてくれる。全てのモノ、コト、にも、その人にしかない体験や想像力がプラスされ、世界が広がっていく。同じものを見ても、同じ言葉であっても、同じヴィジュアルのはずが無いのだ。
私の拙いデザインがきっかけで、其々の人が自分の世界に入っていく瞬間を目の当たりにした時、その届かない空間に惹かれてやまない。これらのやり取りも、商品も、コミュニケーションするための道具なのだと思う。
見えないことへのあこがれは、幼い頃、只々「恐い」と思っていたことから繋がっている。
祭りの日の神社の裏側や暗い池の底。押入れ。雨戸の向こう側…お稲荷さん
今では、惹かれてやまないものの枠に収められてしまった。
そのなかでも特に「闇」という言葉が好きだ。
闇には、無限の奥行き、むしろ無限の色までも感じてしまう。
これを言葉にしてくれたのは、20年間在籍した書塾の先生だ。劣等生の私は、先生の出された本は難し過ぎて、なかなか読み進まなかったのに、先生の話は私の中のモヤモヤしたものを、とても的確に表現してくださった。言葉も大切な道具だ。あのたくさんの時間が無ければ、いま、こうして人に伝える術も持ちあわせてはいなかったのだろうと思う。
私にとって「書」は、とても大切な、人と、言葉に出会うものとなった。
この秋、初めて個展をさせていただいた。
自由にしてもらっていいよ、と言われ、自由が見えなくなった。相変わらずの、おしりに火がつかないと動けないペースではあったが、なんとかギャラリーの空間を埋めることができた。来てくださった方々に感謝! しかない。
下絵は鉛筆と筆。迷いの無い曲線と、ちょこっと褒めてもらった線を、下絵も無視して、無駄に力を入れてマウスで描く。ベジェ曲線でもない。ペンタブレットも使いこなせない私の、目に見える道具はもっぱら「マウス」そのものなのだ。

TE_1

TE_2

タイトルは《猩猩》。朱い異形の者たちの事を代表した言葉。秋を表したり、めでたい舞などのお題にもなっている

タイトルは《猩猩》。朱い異形の者たちの事を代表した言葉。秋を表したり、めでたい舞などのお題にもなっている

タイトルは《猩猩》。朱い異形の者たちの事を代表した言葉。秋を表したり、めでたい舞などのお題にもなっている


 

佐々木まなび(ささき・まなび)

Graphic Designer
裏具プロジェクトArt Director
株式会社グッドマン取締役

茶道、美術館、劇場関係のポスターや出版物の装幀、唐紙、店舗内装、プロダクト、テキスタイルなど。
建築家、工芸技術とのコラボによる商品開発。
常に「媚びない和」「気配を放つデザイン」「少しの毒」を持った仕上がりを心がけている。
1997年より、書家、石川九楊に師事、2007年より京都にてオリジナルのライティングショップ「裏具」をはじめる。

1986年 デザイン事務所「bis」を始める
1997年 書家、石川九楊氏に師事 ~2017
2004年 JAGDAグラフィックデザインジャパン This One!に選定(松井桂三 選)
2005年 株式会社グッドマンに入社
2007年 京都宮川町にてオリジナルライティングショップ「裏具」を開店
2009年 西麻布JAGDA TOKYOにて二人展「東京都展」
2012年 八坂通りに裏具カジュアルライン「URAGU HATCH」を開店
2013年 BS 「極上の京都」出演
2014年 京都一加にて「グラフィックデザイナーによる着物ヌーボー展」参加
2014年 カホギャラリーにて「今琳派・風炉先屏風展」に参加
2015年 ギャラリーSUGATAにて「今琳派・風呂先屏風展」に参加
2015年 三十三間堂南大門近くに、「URAGNO」を開店
2015年 「みずのふばこ」The Wonder 500認定 200選入選
2018年 ギャラリーH2oにて個展

2011年〜 婦人画報、美しいキモノなど掲載
2013年〜 婦人画報サイト「きょうとあす」京都人のひとりごとなど掲載