(2017.10.05公開)
私はやきものを作ってそれを展覧会に出品したり、お店で売ってもらったりして生活している、いわゆる陶芸家です。
私の仕事内容には2種類ありまして、ひとつは私が1人で作る藤田匠平作品の仕事、もうひとつはやはり陶芸家の山野千里さんと共同でうつわ物を作る「スナ・フジタ」の仕事です。
まず私個人の作品の中心となっているものに「石果」と名付けたシリーズがあります。この作品の特徴は釉薬を何層かに重ねながら焼成した後に研磨して仕上げるところにあると思います。ここで必要になってくるのが硬い釉薬を研磨できる道具です。
やきものの表面を研磨することを思いついたのはまだ学生の頃で、もう25年以上前になります。今の様にインターネットを簡単に利用できるはずもなく、道具探しはなかなか大変で、石の彫刻をしている人に聞いたり砥石屋さんに何度も通って相談しておりました。
欲しかったのは柔らかく曲面に添いながら硬い釉薬面を削れる道具、いわゆるサンドペーパーの様なもの、でも一般的なサンドペーパーでは釉薬には歯が立ちません……が、ありました! それはダイヤモンドの粒子をまぶしつけた「フレキシブルダイヤモンドシート」というガラスや石を研磨する道具でした。この道具との出会いで思っていた様な作業が可能になりました。
問題はその価格です。10cm四方で6000円~10000円もするのは学生にとって大変厳しい値段でした。いや今でも厳しい! しかもいかにダイヤモンドと言えど使っていくうちに研げなくなっていくのです。御婦人の指とかに光るその輝きは永遠かもしれませんが、研磨剤としてのダイヤは意外とその切れ味が持ちません。
そんなわけで、先程述べた様にお値段のこともあるので、これをチビチビと使っていく事になります。まず10cm四方のシートを4分割して5cm四方にします。そしてその4隅を1隅ずつ、シート全体の研磨力が落ちない様に部分的に当てながらチマチマと作業をしています。時々この作業を「スナ・フジタ」のパートナーである山野さんに手伝ってもらうことがあるのですが、彼女は1隅ずつなどと気にする様子もなくシート全面を使って悠々と磨いていくのです。「大物だな!」といつも感心させられる一幕です。
さてその「大物」とのコンビで作っている「スナ・フジタ」作品の特徴は、結構細かい動物などの絵付けにあると思いますが、その中でもよく使う技法に「色化粧土」といって、陶磁器制作用の顔料を粘土と水で溶いたもので絵付けするやりかたがあります。
共同作業の流れとしては、まず、私がロクロや型などを使ってうつわの形を作ります。それにベース色の化粧土を平筆で塗って、丁度絵付けしやすい湿り具合で山野さんにパス(乾燥してしまうと絵付け出来ません)、彼女が絵付けをして乾燥させて焼いて完成! という感じです(ちなみに絵付けは私もします)。
この「丁度良い湿り具合」を保つというのが私の仕事のバカに出来ない部分でして、ここで登場するのがいわゆる「衣装ケース」、どのご家庭にもあるのでは? と思われる透明のアレです。
パスした衣装ケースのフタを開けて彼女の作業のペースを確認して、ロクロ作業や化粧土塗りのペースを決定し、もし先走って作ってしまったのなら、乾いてしまわない様に霧吹きでケース内を湿らせたりします。
こんなに衣装ケースのフタを開け閉めする人間は他にいないのでは? と思うくらい毎日「あけしめあけしめ」です。でも、もし衣装ケースが透明でなかったら、外から作品の存在がわからないので、もっと「あけしめ」が増えてたはず! とゾッとしたりしております。
藤田匠平(ふじた・しょうへい)
略歴
1968 和歌山県生まれ
1995 京都市立芸術大学大学院工芸科修了
1996 イギリス留学(Edinburgh College of Art)
各地で個展開催、スナ・フジタも各地で個展開催。