(2026.04.05公開)
中学生のころから、ラジオの深夜放送をよく聞いていました。
夜の静かな部屋に遠くの放送局から、軽快なお喋りや音楽が流れてきます。
それは、まるで知らない世界への入り口のようで、私は胸を躍らせながら聞いていました。「糸井五郎のオールナイトニッポン」もその中のひとつ。
キュルキュルという電波ノイズの中から音楽と人の声を探しながら—。
顔も知らない誰かの声なのに、不思議と近くに感じて、
遠くから届く言葉や音楽は、一人っ子の私の夜を明るくしてくれました。
あの時間が、私にとってのラジオの原点です。
そして今、私はラジオ番組のディレクターをしています。
愛用の道具はというと、ポケットラジオとUSBメモリーでしょうか。
一つは声を遠くへ運び、もう一つは声や音を現場へ届けるための大切な道具。

父が聞いていたラジオと今使っているポケットラジオ
私のそばには、忘れられないラジオがあります。
それは父が昔使っていたもので、壊れて音は出ませんが、私は今でもそのラジオを手放すことができません。
朝は新聞を読みながら、休みの日には畑仕事をしながら、父はいつもラジオを聞いていました。ニュースで社会情勢を聞き、流れる音楽と一緒に歌ったり。それは、声が届く喜びや、ラジオの温もりを教えてくれた、大切な存在。
今でも私は、そのラジオを身近な場所に置いています。
1990年頃、数年間ニューヨークで暮らしていたことがあります。
ジャズクラブ「Fat Tuesday’s」のすぐ裏。初めての一人暮らし。言葉も文化も違う場所で、期待と嬉しさでいっぱいでした。一番に買ったものは「ラジカセ」。
スイッチを入れると、各国の音楽やニュースが流れてきます。ニューアークのWBGOはジャズ専門のラジオ局で、1991年、Miles Davisが亡くなった時には昼夜追悼番組が放送されていました。ラテン系のラジオ局から流れるTito Puenteのサルサを聞いて、「Village Gate」へ繰り出すこともありました。
慣れない土地での生活の中で、その音楽や人の声がどれほど心を落ち着かせてくれたことか。人の声には温もりがあり、話の意味だけでなく、安心も運んでくれる。
そのことを身をもって知りました。相手の顔が見えない分、一層想像力が膨らみます。
やがて私はラジオに関わる仕事をするようになります。
かつて聞こえてくる声に支えられていた私が、今では声を届ける側にいる。
それは少し不思議なことであり、そしてとても嬉しいことです。
私がこの仕事に関わり始めたころと今では、音素材の扱い方は大きく違っています。
オープンリールテープ、カセットテープ、MO、MDと、時代とともに道具は変わってきました。
特にオープンリールの時代は、テープに印を付け、ハサミでカットし、専用のテープでつなぎ合わせるという作業でした。一つひとつの音を手で確かめながら作る手間のかかる仕事でしたが、その分、音に向き合う時間も長かったように思います。

今はほとんど使われていないオープンリール再生機
(KBS京都ラジオで撮影)

お世話になったメディアたち
(KBS京都ラジオで撮影)
そんな時代を経て、USBメモリーという小さな道具で、たくさんの音を記録して扱えるようになりました。USBとは「Universal Serial Bus」の略。
この中に、数時間分の音素材や台本などのテキストまで預かってくれる。それは私にとってとてもアメージングな出来事です。
今では、さらにコンパクトなメディアがありますし、クラウド経由でデータをやり取りして作業することも当たり前になりました。けれど、目に見えて手に取れるUSBメモリーは、私にとって相棒のような存在です。

USBメモリーでたくさんの声や音を預かり、私はそれを「調理」し、放送素材に仕上げます。そして最後は電波に乗せてラジオから発信するのです。
2025年「岸野雄一の~民謡でヨイショ!~」という60分番組を制作しました。
民謡「おてもやん」がどのように生まれ、唄い継がれてきたのかを紹介した番組です。出演者の声や唄、取材先のインタビュー音声を相棒のUSBメモリーに詰め込み、編集機器に取り込み制作しました。この相棒なしでは完成しなかった番組です。
幸いこの作品は賞をいただき、多くの人に聞いていただくことができました。
中学や高校のころ、遠くから届くラジオの声に心をときめかせていた私が、今はその声を運ぶ側、送り出す側になりました。
USBメモリーという小さな道具とともに、大切な声を、音を、向こう側へこれからも運び続けていきたいと思っています。
小林秀野(こばやし・ひでの)
滋賀県出身。KBS京都ラジオ ディレクター。
■制作作品
2010年
「ああ素晴らしき大衆音楽」
出演:大友良英、いしいしんじ
2014年
「宇宙の音が聞こえる! おかえり大野さん。音響デザイナー大野松雄84年目の挑戦」【民放連賞受賞】
2017年
「京都フォーク・デイズライブ きたやまおさむと京都フォークの世界」【日本放送文化大賞受賞】
2022年
「~歌は世にもつれ 世は歌にもつれ~ああ日本の音楽百年史」
出演:細川周平、桂二葉
2024年
「諸口あきら 流れ者の唄」【民放連賞受賞】
2025年
「岸野雄一の ~民謡でヨイショ!~」【民放連賞 エンターテインメント部門最優秀賞受賞】
現在、KBS京都ラジオ「大友良英のJAMJAMラジオ」「レコ室からこんにちは!」などを担当。


