(2025.12.05公開)
気がつくと25年以上、少しずつですが椅子やスツール、お皿やスプーンを作っています。木工はたくさんの道具を使います。その中のノミと豆カンナの2点は、私の木の仕事の原点でもあり、心の中のお守りのような存在です。それにまつわるお話を……。

個展「うつわの時間」
2025年
Nunuka life(京都)
ノミ
私の実家は祖父の代からの鉄工所で、両親は「どんがね」という鉄の輪っかを作っていました。子供の頃は母のサニーの助手席に乗って配達についていったり、工場では、父お手製の機械から鉄の輪がガッチャンガッチャンできる様子を見るのが好きで、端っこでそれをブロックみたいに積み重ねて遊んだりしていました。もちろん油まみれです。
時は流れ、大工さんや建築家に憧れた私は、実際にそれに関連するものを作ることに興味が湧き、芸大の木工コースに進み、夏休みにたまたま実家にノミを持って帰って作業していました。すると「このノミのカツラ、(お父さんが)作ったやつやわ」と父に言われて、「え!! そうやったん?」とびっくり。父が言った「ノミのカツラ」とは、ノミを槌で強く叩いた時に柄が割れてしまうのを防ぐため、柄に取り付ける鉄の輪・「カツラ/桂」のことで、小さいけれども大事な部分です。今思うと変な話ですが、父が作っていた「どんがね」がカツラだったのだと気が付いていなかったんです。父によると「
木工作業は、機械で早くできるところは機械で進めるので、平ノミは、ほぞ加工(ほぞと呼ばれる突起とほぞ穴と呼ばれるくぼみを組み合わせる接合技術)の調整のとき、お皿の表面を彫るとき、丸ノミはお皿の中や表

愛用のノミと豆カンナ。左は叩き輪(表面を叩いて仕上げてある)のカツラで特にお気に入り。工場で叩き輪ができる音が浮かんできます
豆カンナ
大学院卒業後は、漆芸家具工房にお世話になりました。親方は、人間国宝・黒田辰秋さんの息子である乾吉さんの工房で職人をされていた時期があり、お茶箱などの指物(さしもの:釘や接着剤を使わず、木と木を差し合わせて作る木工品)や拭き漆の家具を作っておられました。工房では、刃物の研ぎと、小さな豆カンナの使い方を教わりました。「手で作れるものを作れ」「轆轤(ろくろ)で作れるものではなく楕円や」と。楕円を削る鍛錬をするには、親方が言うには木刀を作るのが一番良いそうですが、私はスツールで練習させていただきました。線の集合体というイメージで、線が切れないよう、全部がすーっとつながっているイメージを持って削る。点と点ではなく、線の集合体でできた形が楕円。今も少しずつ作り続けている豆スツールの始まりです。ちょっと歩き出しそうな凛とした佇まいを目指しています。私の中で「豆カンナで削る」という行為は、「骨格を作る」感覚に近いです。最後はペーパーで磨いて仕上げますが、磨くときも、刃物跡を残して仕上げるときも、小さなカトラリーを作るときも、「線はつながっている」という気持ちで形作ることをずっと意識しています。

豆スツールの脚を削っているところ

豆スツールの座面を削っているところ

豆スツール。座面を楕円にすることで、脚の見え方に表情が出てきます。そばにちょこんと置いておきたい相棒的な存在としてお使いいただいてきました
教室
また自分の作品作りと並行して、木のカトラリーの木工教室も数多く開催してきました。実は実家がある三木市は金物の町で、プロの大工道具から、趣味の木工道具関連、幅広い金物製造工場がたくさんあります。ノミや豆カンナに加えて、彫刻刀など、職人さんが作ってきた道具を使い、作る楽しみを一般の方にもお届けしたい、作る時間を共有できたらと思ったのが始まりでした。今でも時々「スプーン教室に行ったことがあります」と声をかけていただくことがあって、嬉しくなります。近年は制作に専念したいこともあり、単発のイベント以外はしばらくお休みいただいていますが、教室を再開したときにはどうぞよろしくお願いします!
最後に
近年、どんどん自動制御で加工できるようになって、形は作れるようになっているようです(全く詳しくありません)。体力的にも助けてもらえるところは取り入れたいなと思いますが、さて自分が作ることって何かなと考えてしまいます。
私にとって作品は、いろんな記憶や、人との関係が大きく関わってできています。一対一の関係で、均一でないゆらゆらとした揺らぎというか、息づかい、質感を感じるものでありたいです。
大学時代、木工専攻に分かれてはじめの授業で、今は亡き恩師、藤崎誠先生が「一つの素材を選んで、その中でのたくりまわる。それが工芸なんやわー」と言われていました。その時はピンときていなかったんですが、面倒な世界に入ってしまったなあと今はわかります。ともかく、コツコツシャカシャカと、私なりに木に向き合う時間を楽しんでいけたらと思います。
戸田直美(とだ・なおみ)
木工作家。椅子やスツールの家具工房potitek主宰。
1976年 兵庫県三木市吉川町生まれ
2001年 京都市立芸術大学大学院美術研究科 漆工専攻終了
漆芸家具工房に居候の後、建築家、美術家たちとの共有アトリエT-roomにて独立。
場所作り、木を通して人とヒト、ハコ、モノを繋げる活動に興味があり、展覧会の企画、
木工教室やワークショップも開催している。
Instagram: @potiteknaomi


