アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

手のひらのデザイン 身近なモノのかたち、つくりかた、使いかたを考える。

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#144

レオタード
― 小倉 笑

(2024.12.05公開)

私はパフォーマーです。

踊ることもあれば、歌を歌ったり、楽器を演奏したり、“ただそこに居る・佇む”みたいなパフォーマンスをする場合もあり、何をするかやパフォーマンスのスタイルはその時の状況や依頼者の意向で変化します。
どんなところでパフォーマンスをしているかというと、それもまたさまざまで。
劇場で舞台作品に出演したり、ライブハウスや美術館、民家のような場所でのサイトスペシフィックなことをしたり。その他だと毎年、左京区の公園で“前衛芸術ショウ”に出演したり、盆踊り大会で歌い手として歌っていたり、写真や映像に写ったり、色々な場所・スタイルでパフォーマンスを行っています。

Photo: Tokiyo Takehira

Photo: Tokiyo Takehira

こうしたパフォーマンスの依頼を受ける中で毎回考えるのが衣装についてです。
舞台作品などに出演する場合には衣装制作の方がいたり、演出家からあらかじめ衣装案が用意されていたりするのですが、そういったことはごく僅かで、ほとんどの場合「その場に何を着て存在するか」を自分で考えなくてはいけません。
何を着るかで動きの可動域や立ち振る舞いに影響があります。
パフォーマンスをする時に何を纏うのかが非常に大切になってきます。

私はこんな衣装をいつも探しています。
「どんな存在にも見えて、概念的で、シルエットが美しく、性別も超越し、可憐で、ゴージャスにも庶民的にもなれて、動きやすく、力強さもあり、ユーモアも兼ね備えた、決して大勢に紛れることのない衣装」

衣装には観客とパフォーマーを繋ぐ役割もあります。
時には、踊ったり、歌ったりしなくても、一目で「あの人はなにかをする」と観客に思ってもらう必要がある場合もあります。
野外や人混みの中でパフォーマンスをする場合、歌っていても声が聞こえなかったり、人混みの中で踊っていても何をしてるか観客に見え難かったりするもので、そんな状況の場合は意識的にお客さんに目を向けて耳を傾けてもらう必要があります。その場合、「目で追いかけたくなる衣装、注目してしまう衣装ってどんなだろう」とも考えます。
衣装によっては、半径1mくらいの範囲、人を避けることも可能なくらい衣装の力は大きいです。

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Photo: Yutaka Hasui

Photo: Yutaka Hasui

毎回のパフォーマンスで「今回は何を着よう」と考える中で、レオタードという形の衣装は私の中でとても大切な存在です。
私が選ぶ衣装の形の中には西洋ドレス、着物、パンツにシャツ、ワンピースなど様々なスタイルがあるのですが、レオタードは別格に私を助けてくれています。

レオタードは非日常着です。道をレオタードを着て歩いてる人はほとんどいないですよね。
かと思えば、老若男女、レオタードという形には少なからず出会ったことがあるみたいで、すんなりと存在を認識されます。もしくは水着だと思われる場合もあります。

レオタードはどんな存在にも見立てられる可能性があります。
レオタードと共に纏うアクセサリーでもそれらを演出できるでしょう。
破れた網タイツにピンヒール、ネックレスをつければ場末のキャバレースタイルに。
上品なタイツにローヒール、肘まで隠れるグローブをつければショウダンサースタイル。
靴下にスニーカーだとスポーティに。
裸足で駆け回れば性別や年齢も超越した妖怪的な姿にもなります。

レオタードはシルエットがしっかり見えます。
私の身体の特徴は、“なで肩”で腰に“くびれ”がなく、正面から見ると寸胴鍋のようなフォルムをしています。これらの身体的特徴を可愛く、ポップに包み込んでくれるのがレオタードです。
そして背中が広く開いた形状のレオタードを好んで着ます。ピタリと全身を覆う布から大胆に背中が見えることで、より背中が強調され多くの表情を背中でつくることが可能となります。

レオタード、その存在感は纏う自分を差し置いて群を抜いて強いのです。
かと思えば、とても動きやすく、一糸纏っていないような開放感を与えてくれます。
ただ見た目では“裸”とは全く異なり、一糸纏っているのです。
身体感覚にも大きな影響力を与えています。
レオタードを纏い、レオタードをより美しくみせるのか、ユーモラスにみせるのか、官能的にみせるのか、普段着のようにみせるのか、その選択によって、私のパフォーマーとしての身体感覚と意識は完全に変化しています。
「レオタードによって踊らされている」とも言えます。

そしてレオタードの中に、えも言われぬ滑稽さ、物悲しさ、哀愁も感じることがあります。

シンプルだけれど表情豊かなレオタード。
レオタードを纏い、パフォーマンスをすることを今後も続けたいと思っています。
最近では様々な素材でレオタードを作成することにも興味があり、メッシュ素材の洗濯ネットを使って自分で作成してみたりしています。
昨年、山内祥太さんの作品に出演した際にはゴム製の特注のレオタードを作成していただき、パフォーマンスする機会をいただきました。

「いつまで着るのだろう」とふと思う時もありますが、「着たい」と思うあいだは着れたらよいと思います。そして、パフォーマーである私の身体を包み込んで、呑み込んで、もはやレオタードがパフォーマンスしてたんじゃないかって思われるくらい、レオタードには生き生きしていてほしいと思います。
そしてそして、レオタードが生き生きと私の肉体と踊ってくれる限りは、着てもいいんじゃないかなと思っています。

Photo: Toshifumi Kakiuchi

Photo: Toshifumi Kakiuchi


小倉 笑(おぐら・えみ)

岐阜県大垣市出身。10歳から声楽とダンスを始める。
2014年より京都で活動を開始。以降、Monochrome Circus、康本雅子、笠井叡、mama!milk等の舞台やコンサートに出演。自身でも作品創作を行っており、2021年に創作団体SMILEを立ち上げ、「SMILE」「A human dodging a fried oyster / 牡蠣フライを避ける人間」「SUPER COMPLEX」などの舞台作品を発表。Belle Santos(独)と共同で作品創作をするなど国内外で活動。2022年よりKYOTO Cultural Festivalを主催。2025年度より京都国際ダンスワークショップフェスティバルのプログラムディレクターに就任。
ジャンルに捉われず様々な活動を展開中。

https://smileemi.wixsite.com/smile
Instagram: @kaigenemi