アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

手のひらのデザイン 身近なモノのかたち、つくりかた、使いかたを考える。

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#122

タイムライン
― 前田青空

(2023.02.05公開)

私は普段アニメーション表現を主軸に映像制作をしています。
「アニメーション」とはなかなかに広義な言い回しで、2Dか3Dか、あるいはストップモーションかといったように、作り手によって表現領域は様々あるでしょう。それでも、現実を拡張したりそこから飛び出したりしながら作品固有の映像世界を描き出すといった点では共通する部分があると思います。

では、その世界を描き出すために私はどんな道具を使っているのか。なにか作業をする時はPCか液タブを眺めている時間が長いですが、それらは世界を覗き込むためのファインダーにすぎません。マウスやタッチペンもまた、その時々に最適化されたデバイスでしかなく、一時的に世界へ手をのばすための経由地でしかないでしょう。アニメーションを「時間を描き出す芸術」とも捉えるならば、私がその世界にふれるために手にしているものは「タイムライン」なのかもしれません。
ここでいうタイムラインは映像制作ツールに搭載されている機能のことです。外部から読み込んだり内部で生成したデータをここに並べることによってひとつの映像へと変換できるのですが、私は大半の素材を静止画像の形で作っているので、これなしでは作品を完成させることができません。個別のレイヤーに割り振られたイメージを任意の順番で重ね、動かしたり切り替えることによって想像を具現化させていく行為は、たとえそれが地味で辛い作業であっても気にならないほどに私を創作の世界にのめり込ませてくれるものです。

手のひらのデザイン_2302_aozora_maeda_picture_1

振り返ると、ものづくりをする時はいつも「流れ」から考える癖があります。
作品ごとに、あるいはその構成要素ごとにどのような方法を用い、組み合わせていくかということに一定の刺激や実験性を求めていたいのだと思います。創作のなかで未知の領域を意識し続けることは、自分にとって大きなモチベーションになっています。

したがって、私にとって常に決まった手段というのを想像するのは難しいです。専ら2Dアニメーションの領域で映像を作り続けている自覚はありますが、その過程で筆をもたずに現実の人物や風景にカメラを向けているような時間も長いです。最近は3DCG空間でオブジェクトを組み上げていることも多かったように思えます。「絵を描く」といった行為は私にとっていくらかある手段のひとつで、むしろ苦手意識すら感じています。
実写の動きをトレースするロトスコープという手法に手を出しはじめたのもそのようなネガティブさ故であることは否めません。実写素材や3DCGを取り入れるのも一種の逃避といえるかもしれません。しかしながら、現実とアニメーションとを横断するロトスコープに内包される「不気味さ」の存在をコントロールしていくことは自身の表現を拡張しうるものであり、どのフィールドからイメージを掬い上げるにせよ、絵を描く行為の単なる代替品としてではなく、様々な手法の素の質感と向き合うことも忘れてはならないと感じます。

このような前提によって煩雑に用意された素材を眺めたところで、そこから完成された映像のイメージを想像するのは困難でしょう。タイムラインに並べられたイメージが相互に作用し、同じ時間軸を共有しながら流れていくことによってはじめて世界を見渡せるのです。
以前、作品制作の過程でロトスコープのベースとなる実写の動きと3DCG空間のカメラワークとを別機材で同時収録するという実験的な試みをしたことがありました。現場で別々のモニターを見比べた際は問題なく双方の動きが同調しているように感じましたが、脳で補完した印象とは曖昧なもので、後ほど重ね合わせてみると微細ながらも見過ごせないズレがみつかってしまったという苦い思い出があります。それを確認した時も、あとから調整していた時も私はAfterEffectsやBlenderのタイムラインに日夜かじりついていたことでしょう。そのとき手に握っていたマウスも私の道具といえるのかもしれませんが、目線の先にあったタイムラインは間違いなく、私にとって慣れ親しんだものづくりの道具であり、そのなかに描き出したい世界が広がっているのだと思います。

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前田青空(まえだ・あおぞら)

1999年埼玉県生まれ。2022年日本大学芸術学部映画学科卒業。
主にロトスコープをテーマとした映像制作を行い、実写素材や3DCGを用いて空間表現の拡張を試みている。主な作品に『蟹眼』(2022)、『BOX』(2021)などがある。上映・受賞歴として「イメージフォーラム・フェスティバル2022(東アジア・エクスペリメンタル・コンペティション)」「第33回東京学生映画祭(アニメーション部門)」「International Students Creative Award 2022(国内映像コンテンツ部門 松本俊夫賞)」など。

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