アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

風を知るひと 自分の仕事は自分でつくる。日本全国に見る情熱ある開拓者を探して。

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#84

時代とともに変化し続け、“ファンアート”の可能性を追求する
― MASAYA ICHI(マサヤ・イチ)

(2019.11.10公開)

©TOMY ZOIDS is a trademark of TOMY Company,Ltd and used under license. Visual design by ANIMAREAL

©TOMY ZOIDS is a trademark of TOMY Company,Ltd and used under license.
Visual design by ANIMAREAL

漫画やアニメで見た世界観を、まるで目の前に現れているかのように、リアルなアート作品につくりあげる「ANIMAREAL(以下、アニマリアル)」。
衣装を素材から選び、モデルにメイクを施し、カメラマンによって撮影された写真を、3DCGを織り交ぜながらPhotoshopで合成することで、独自の世界観が生み出されるという。20名ほどのプロフェッショナルで行う作品制作の中心にいるのが、代表を務めるMASAYA ICHIさんだ。プロジェクトとして始めた頃から現在までの活動について伺っていると、時代と並走し、変わり続けるクリエイターとしての姿が浮かび上がってきた。

———「アニマリアル」とは、一体どのような会社として立ち上げられたのでしょうか。

まず、自分たちの活動を「会社」と表現しない方がいいと思っています。我々は、日本の漫画やアニメをアートに実写化するプロジェクトとして始めたものですので。そもそも会社のように利益モデルではなく、あり方としてはアーティスト集団に近いですね。
始めたのは5、6年ぐらい前のことで、当時は漫画の実写化作品が少なかったんです。そのなかで『ドラゴンボール』(鳥山明)がハリウッドで実写映画化されたんですけど、出来上がりに僕は1ファンとして納得ができなくて。それだったら僕がつくったほうがいいと思ったのが、このような作品をつくるにあたったきっかけですね。だからあくまでも自分たちの作品は原作があってのファンアートだと、今もなお思っているんです。

———第1作目はどのようにつくられたのでしょうか?

最初は友達同士で「年賀状にでもしようよ」ぐらいの気持ちで始めて、原作にしたのは『ドラゴンボール』。その頃、YouTubeに3分の動画をアップするっていう当時新しい試みのコンテストがあって、そこに亀仙人のメイキング動画を出したんです。グランプリではないんですが、スポンサー賞を受賞したんですよ。副賞としてとある雑誌に特集を組まれたのがきっかけに、知名度が一気に広がっていって。でもその1作目から、2作目をつくるまでに1年ブランクがあるんですね。本当はもっとやるべきだったけど、グラフィックデザインの仕事が中心になっていて、アニマリアルとしてはすごく中途半端な時期でした。
2作目は『ワンピース』(尾田栄一郎)のボア・ハンコック。そのモデルをコスプレイヤーさんにお願いしたんです。当時、コスプレイヤーの世界ってガラパゴス化していたんですよ。現在のようにTwitterを使って、仲間やファンと交流するような感じではなくて。コスプレイヤー専用のSNS2つあって、それでコスプレイヤー同士が交流するっていうすごく閉ざされた世界だったんですよね。彼らの作品というのも、ただ写真を撮っているだけなので、レベルもめちゃくちゃ低かったんです。当時はYoutubeにチュートリアル動画が少なくて、学ぶこともできないから、技術も本を買って得るしかない。今からたった数年前のことなんですが、まったく違う時代でした。そんななか、ハンコックのモデルをしてくれたコスプレイヤーさんが、専用のSNSに僕たちのつくった作品画像をアップしたんです。1つは日本国内限定のSNSで、ここで彼女は1位を獲った。もう1つは全世界に繋がっているSNSで、そこでもワールド1位を獲りました。
すごいと思うかもしれませんが、当たり前のことで。ガラパゴス化している時代ですから、同じようにできるひとがいなかったんです。その画像がコスプレイヤーのなかで一躍有名になったことが、現在のコスプレイヤー達の作品に繋がっています。ただ写真を撮るだけでなく、Photoshopを使って武器を光らせるエフェクトをかけたり、合成したりといったような発想は、すべてこのハンコックの作品がスタートになっているんです。

©鳥山明(集英社) / ANIMAREAL

©尾田栄一郎(集英社) / ANIMAREAL 1作目となった『ドラゴンボール』の亀仙人(上)と、2作目である『ワンピース』のボア・ハンコック(下)。「それぞれ辰年と巳年に」と、実際に年賀状にもなったそう

1作目となった『ドラゴンボール』の亀仙人(上)と、2作目である『ワンピース』のボア・ハンコック(下)。「それぞれ辰年と巳年に」と、実際に年賀状にもなったそう

———ただレベルの高い作品を世の中に見せるだけでなく、いわばコスプレカルチャーを進化させた、ということですね。

最近は時代の動くスピードが速いので、スマホで素人でもレタッチができるようになったりしていますよね。もともとレタッチなんて、専門家しか知らない言葉でした。InstagramをはじめとしたSNSが出て以来、写真の重要性が高くなってきています。そんな時代と、僕たちがつくった作品がマッチして、コスプレイヤーのなかで広がったと言えますね。そうやって続けて作品をつくっていたら、大手出版社さんから声がかかって、漫画雑誌の表紙をつくる機会が増えました。雑誌の表紙に、2次創作が掲載されるなんてありえないことなんですよ。漫画のイラストかグラビア写真しかないところに、僕たちは新しいグラフィックアートをつくった。時代性も大きい理由としてありますけど、そういった作品で自分たちの地位を確立することができました。基本的に2次創作は出版社から認められることはないので、僕たちがその1号であり、未だに2号は出ていない状況です。

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©奥浩哉・講談社 / ANIMAREAL 『いぬやしき』(奥浩哉)とコラボレーションし、つくられた作品は雑誌の表紙も飾った。その他にも『GIGANT』(奥浩哉)や『響~小説家になる方法~』(柳本光晴)、『鬼灯の冷徹』(江口夏実)など、実写化し表紙を飾った作品多数

©奥浩哉・講談社 / ANIMAREAL
『いぬやしき』(奥浩哉)とコラボレーションし、つくられた作品は雑誌の表紙も飾った。その他にも『GIGANT』(奥浩哉)や『響~小説家になる方法~』(柳本光晴)、『鬼灯の冷徹』(江口夏実)など、実写化し表紙を飾った作品多数

———「アニマリアル」では、2次創作を認められる「ダブルライセンス」を取得しているそうですが、なかなかできないことだと伺いました。

権利者からビジュアルのOKが出て、パーセンテージのロイヤリティを支払えば、正規品としてお店で売ることができるということですね。それを「ダブルライセンス」って表現していましたけど、僕らしか持っていないライセンスだから、実際は表す言葉がないというのが正しいと思います。一般的な2次創作とは違い、僕らは権利元から許諾を得て、場合によっては対価を頂いている場合もあるので。

———プロジェクトとして始めた当初から、ビジネスとしても成功させたい思いはあったのでしょうか。

ビジネスにする気持ちはなかったです。もし僕がビジネスマンであり、経営者として一流であればもっと利益が出せていると思うんですけど、どちらかというとクリエイター脳でありアーティスト脳。「アニマリアル」の活動で稼げるビジョンは正直見えなかったですね。世の中に衝撃を与えたいという気持ちの方が大きかったと思います。

———例えば雑誌の表紙をつくる際、どのようにして制作を進められるのでしょうか。20名近くのチームでやっていると、イメージの擦り合わせが難しそうに感じますが。

僕から「こんなのがかっこいいと思います」というラフ案を出して、出版社と作家からOKが出ればそのまま進めます。もちろん主人公をメインにしてほしいなど制限はありますけど、具体的な指示があったことはないですね。
イメージの擦り合わせは、メイクならメイク、衣装なら衣装でそれぞれ違います。完成図は僕の頭のなかにあるから、チームがそれをどう理解して、表現してもらうかということですよね。長く一緒にやっているとスムーズに理解してもらえることもあります。一番難しいのは衣装。どの布を使うかってところに結構苦労しているので、布は自分で買うことが多いです。
でも、最終的に絵をつくるのは僕なので、もしイメージ通りじゃないものがあがってきても、最終的にPhotoshopでつくれるんです。キャラクターのそっくり度でいえば、撮影時でだいたい4050%ぐらい。最後のコンポジットと呼ばれる僕の作業で、100120%にまで上がります。

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製作中のようす。ICHIさんは現場の監督もとりながら、イメージを具体的につくりあげていく

制作中のようす。ICHIさんは現場の監督もとりながら、イメージを具体的につくりあげていく

———ICHIさんはグラフィックデザイナーという一面も持たれていますが、画像編集の際その経験が活かされているのでしょうか。

グラフィックデザイナーというより、「フォトショッパー」という言い方が合っているかもしれませんね。今年の6月からYouTubeに制作動画をアップしていて、そのなかにトウモロコシやスイカなどをスマホで撮った画像だけを使って、「トトロ」をつくる動画があるんです。こんな素材だけでリアルなトトロをつくることができたら、Photoshopのチャンピオンだろう、なんて思ったりしています。こんなやり方をする必要もないんですけど、ここまで条件を縛ってつくれるひとは他にいないと思っています。だからチームでの制作の際に衣装や特殊メイクなど、万が一思ったものがあがってこなくても、最悪は僕がPhotoshopで全部カバーすることができる。究極のところ、トウモロコシでトトロがつくれますからね。

ICHIさんが1人で、夏の風物詩のみを素材にトトロの絵を完成させるという動画。YouTubeではその他に、フリー素材の合成でつくりあげる『ワンピース』の「Where is this??」シリーズや、チームでのメイキング動画も公開中だ

———一方で、原作への理解力や想像力が強く感じられる「アート」である、という点も「アニマリアル」の作品のすごさだと思います。ICHIさんは京都造形芸術大学にて油画を専攻されていたそうですが、そこに何かヒントはあるのでしょうか。

僕はそれ一本で美大に入りたかったぐらい、デッサンが得意だったんです。油画を選んだのも、一番デッサン力が必要とされている学科だったから。「アニマリアル」の制作は写真合成がメインなんですね。Photoshopで写真合成をする時、光と影がすべて正しく合わさっていないといけない。また、光と影を描くことができないといけない。ここに人物がいたらどう光が当たるのかっていうことを理解していないと、絵がおかしくなってしまいます。つまり、デッサン力がめちゃくちゃ必要なんですね。Photoshopもただの写真加工ソフトではなく、絵を描くソフトでもある。だから使いこなそうと思うと、絵画力が必要なんですよ。
それから作品への理解力という点で、1年ほど前から思い出したことがあって。僕の通っていた小学校は、夏休みの宿題に読書感想文と読書感想画があったんです。後者はようするに、本を読んで1枚の絵に描くといった、読書感想文の絵バージョン。僕は絵を描くことが好きだったから、読書感想画をいつも選んで提出していました。そのあと学校が、国が主催のコンクールに提出するんですね。僕は毎年入賞していて、全国で表彰されていました。それが楽しくて、中学生になっても自主的に描いて出し続けていました。今思えば読書感想画って、まるっきり「アニマリアル」だなと思って。漫画を読んで理解して、一番印象的なシーンの絵を描いている。やっぱり自分はこうやって表現するのが得意なんでしょうね。だからこの活動は続けていこうと思っています。時代との関係性も重要ですけど、それと同じぐらい、1つのことを続けていくということも大事なんです。

©板垣恵介(秋田書店)1992 ©︎ANIMAREAL / ICHI

©板垣恵介(秋田書店)1992 ©︎ANIMAREAL / ICHI

©板垣恵介(秋田書店)1992 ©︎ANIMAREAL / ICHI ©高橋ヒロシ (秋田書店) 1991 ©ANIMAREAL / ICHI 実写化の難易度の高いファンタジー作品を徹底的につくりあげるのみならず、近年では格闘漫画や不良漫画といった、日常を描いた作品も多く手がけている

©高橋ヒロシ(秋田書店)1991 ©ANIMAREAL / ICHI
実写化の難易度の高いファンタジー作品を徹底的につくりあげるのみならず、近年では格闘漫画や不良漫画といった、日常を描いた作品も多く手がけている

———続けられていることといえば、先ほどお話に出たYouTubeもそうですが、定期的に制作動画がアップされていますね。

6月からYouTubeのプロダクションと契約して、専属アーティストとして活動しています。SNSとか、インターネットをより味方にしていきたいという思いが強いです。今の時代、音楽も映像も、漫画もなんでも無料。画像なんて一番無料ですよね。僕たちが稼ごうと思ったら、絵を何かのプロダクトに換えないといけないんです。もしくは、無料で公開して収入を得る。一般人からお金をもらうんじゃなくて、Googleなど企業から対価を得ることが僕はいいと思っています。だから今、YouTubeでは写真合成のノウハウもすべて無料でアップしているんです。
毎週更新しようと思っているので、どうしてもインスタントな、こだわりの低い作品動画が多くなります。従来の作品のように、ちゃんとモデルにメイクして撮影した写真を使った方がもちろんいいものができるし、魂のこもった作品になるんですが、YouTubeではネットのフリー素材を使ったりしていて。だから結構否定的な意見も多いし、僕らをずっと知っているファンのなかには「あの動画は好きじゃない」っていうひともいます。でも、チャレンジにはリスクが必ず存在するので、周りから何を言われてもチャレンジは続けようと思っていて。今はインスタントな作品だけど、そこから何か生まれるかもしれないですよね。「アニマリアル」が今後どんなかたちに変わっていくのかわからないですけど、今後も挑戦を続けたいと思っています。

———その他にも今後、やっていきたいと思われることはありますか?

一言で言うと「いろんなことをやって、いろんな失敗をしたい」。思いついたことを全部試して、失敗を重ねていきたいですね。どこまでその失敗に僕が耐えられるかっていう、精神力との勝負です。どんどん時代が変わってきていると感じているし、今何がヒットするかの答えなんて、インターネットにも落ちていないですよね。だから思いつくことはなんでも挑戦する、失敗する、そこから学んで正解に近づけていけたら。今はまさにもがいている時期ですね。110万円のアートパネルも売っているし、650円のクリアファイルも売っている、YouTubeSNSもやっている。今までのちょっとした成功体験はすべて忘れてチャレンジしていきたいですね。

———活動が変わってくるとICHIさんご自身の肩書きも変わってくるのでしょうか?

肩書きなんてものは重要ではないと思っています。今は儲かっているわけでもないし、有名にもなったわけでもない。ウィキペディアがあるわけでもないし。全然成功していないんですよ。もし将来映画を撮ったら映画監督って呼ばれるかもしれないし、絵が売れたらアーティスト、YouTubeがヒットしたらユーチューバーかもしれないですよね。でも1つ確かなのは、僕はクリエイターだということです。きっとこの先もずっと、何かを創造していくのだと思います。

取材・文 浪花朱音
2019.08.28 オンライン通話にてインタビュー

profile

MASAYA ICHI(マサヤ・イチ)

ANIMAREAL代表。グラフィックアーティスト。3歳から絵画を始め、6歳で油画の道へ。
京都造形芸術大学に進学し、卒業後、LONDON Central Saint Martinsに留学。
在学中にMacに触れて以来Photoshopにのめりこむ。現在は多くの漫画やアニメを題材とした公式アートを制作。
UUUMに所属する傍ら、京都造形芸術大学と大阪成蹊大学にて講師を務める。
スタン・リー推薦のアートブック「ART of ANIMAREAL」がパイインターナショナルより発売中。


浪花朱音(なにわ・あかね)

1992年鳥取県生まれ。京都造形芸術大学を卒業後、京都の編集プロダクションにて、書籍の編集・執筆に携わる。退職後はフリーランスとして仕事をする傍ら、京都岡崎 蔦屋書店にてブックコンシェルジュも担当。現在はポーランドに住居を移し、ライティングを中心に活動中。