台湾には多くの「老街(ラオチエ)」と呼ばれる古い町並みがあります。レンガ造りの建物が並び、レトロで味わい深い風景が人気で、観光客も多く訪れる場所です。そんな老街のひとつ、三峽老街は、台北駅から台鉄に乗って鶯歌駅下車、車で10分ほどのところにあります。今回紹介するのは、この三峽老街の清水祖師廟(チンシュイスシミアオ)で毎年旧暦1月6日に行われている「神豬(シェンチュ)」をお供えする祭りです。
清水祖師廟は、1767年に中国福建省から台湾に移民してきた人々が持ち込んだ信仰が起源です。毎年、宗室が持ち回りで「賽神豬(サイシェンチュ)」あるいは「賽豬公(サイチュコン)」と呼ばれる儀式を行います。彼らは専門的に神豬を飼育してその大きさを競います。昨年、特等を獲得した神豬はなんと約860㎏。神豬の飼料はただの粥とのことですが、本当に粥だけでこんなに大きくなれるのか、不思議でなりません。
祭り当日は、朝8時から神豬が町を練り歩き、昼ごろに廟に到着して祭祀が行われます。廟内は、その頃にはまるで満員電車に乗っているような人ごみ。さらに足元で爆竹が鳴るなどの危険もあり、大変です。けれども、平安を祈り幸せを求める人々の意気込みに押されて、おめでたい気分になりました。
廟で見る神豬は、祭り前日に処理が行われて、風船のように丸く膨らませた姿になっています。どの神豬が一番か確定した後、血抜きをして肉や骨を取り除き、皮を円型の台に架け、飾りをつけて整え、口にパイナップルまたは柑橘類を入れて縁起のよいことを願います。
このような祭りが行われるようになったのには、2つの説があるそうです。1つは、中国からの移民後、いわゆるホームシックに罹り、1月6日が清水祖師の誕生日であることを理由に、みんなで集まって豚を殺して祝ったという説。もう1つは、移民後に野生の獣や原住民の侵入により生活が脅かされたため、豚を殺して山神を祭り、平安を求め厄を祓ったという説。いずれにしても、当時の熱気は今も変わらず伝えられているのでしょう。祭祀が終わった後、神豬の毛を抜いて持っているとその年の平安が得られると言われています。肉はその場で売られ、買った人には幸運が訪れると言われています。
(加藤明子)
参考
三峽清水祖師廟(中国語)
http://www.longfuyan.org.tw/front/bin/home.phtml