長崎市と佐世保市の間にある西海市。県道229号線の静かな林道をゆっくりとドライブしていると、ふと森の陰から軽やかに音楽が流れてきます。道の下に赤い屋根の可愛らしい木造の建物がポツンと佇んでいます。それが「大瀬戸やすらぎ交流拠点施設 音浴博物館」です。
ここは当初、旧満州引揚者の開拓団の子供たちのために造られた小学校分校でしたが、昭和51年、高度成長期の人口流出により廃校しました。
残された校舎はその後、昭和55年に日本赤十字社のベトナム難民援護施設として提供されることとなり建物を増設、平成7年まで15年間に渡り延べ671名の難民を受け入れました。退所後難民たちは、お世話になった地元の人々に感謝しつつアメリカをはじめ世界各地へと旅立って行きました。
役割を終えた建物はその後放置されていましたが、ちょうどその頃、岡山県倉敷市の職業訓練校職員であった栗原榮一朗氏が、集めたレコード約5万枚の保管・展示場所を探していたところ、長崎県旧大瀬戸町からこの建物の紹介を受けました。栗原氏はこの場所がとても気に入り、平成13年にこの地に移住して音浴博物館を設立しました。この小さな建物は再び人々のやすらぎの場として蘇ったのです。
さて、エントランスから中に一歩入ると一気に昭和にタイムスリップします。古い音響機器の数々と約16万枚ものレコード。さりげない学校の名残。そして、この博物館の特筆すべき点は体験型となっていることです。入館者は誰でも自由に、貴重なレコードに触り、好きな音楽を選び、貴重な音響機器を使っていろいろな音色で聴くことができます。一世を風靡した往年の名機も整備されており、現役で最高の音を奏でてくれます。また100年以上前のエジソン蝋管式蓄音機で、筒状の蝋管レコードの音を実際に聴くこともできます。これは世界的にも珍しいことです。
ジュークボックスに100円を入れてフォークソングを聴いてみました。カラフルなボックスを開けると、オートチェンジャーがレコード盤を選び出す様子が見えてメカニカルで面白い。そしてその音の良さに驚きました。今の時代、アナログは魅力的で新鮮でさえあります。
英語の「RECORD」は、ラテン語では「心を呼び戻す」という意味があるそうです。たまには人里離れた森の中で、時を忘れて音楽を浴びるのもいいものです。今では全国からファンが訪れています。
(山口美登志)
音浴博物館
https://onyoku.org/
長崎県西海市大瀬戸町雪浦河通郷342-80