現在の大阪府堺市は、かつて大阪府ではなく「堺県」という独立した県であった時期があるのをご存知でしょうか(1)。
明治元年から14年間だけ存続した県でしたが、堺は先進的な近代行政を行っていたユニークな都市でもありました(2)。
その時代に建設された旧堺燈台は、南海本線堺駅から1キロほど西の、堺旧港の南波止場にあります。明治10年(1877年)の完成以来使われてきた灯台でしたが、昭和34年(1959年)から始まった臨海工業地帯の埋め立て造成で大阪湾航行の船からも見えなくなり、灯台としての役目を果たさなくなって、昭和43年(1968年)に廃灯しました。
その後、現存する木造の洋式灯台としては日本で最も古いもののひとつとして国の史跡に指定され、現在は堺市のシンボルのひとつとしてあちこちで紹介されています(3)(4)。
石積みの基礎に六角錐形というデザインが印象的な旧堺燈台。
夕方には、三脚を立ててカメラを構える人や太陽が海に沈む眺めを楽しむ人々が訪れる、夕陽の美しいスポットとしても知られています。
現在の本体は平成13年度から18年度にかけての保存修理工事によって、築造当時に近い姿として建てなおされたものですが、興味深いのは、明治初期の建設当時、その建築費用の多くが堺の住民の寄付(と県の補助金)によってまかなわれ、設計や建設工事にも地元の大工や石工が深く関わったという点です(5)。
阪神高速道路の橋梁がすぐそばに迫る、現在の景観からは想像もできませんが、堺港の発展に情熱を注いだ当時の堺の人々の熱意を思い、明治、大正、昭和をつうじて海を照らしてきたこの灯台をあらためて眺めると、いっそう趣のある佇まいにも感じられます。
中世には国際貿易都市として栄えた堺を支えた港の周辺地区(6)は、明治21年(1888年)に堺に初めて鉄道が開通して以降は、多くの人で賑わう海浜リゾート都市としても発展しました(7)。
今ではその面影は全くありませんが、堺旧港周辺を散策すると、燈台跡だけでなく他にもあちこちにこの一帯の「物語」を見つけることができます。
世界遺産の百舌鳥古墳群で知られる堺市の北部は、各駅前などに貸し自転車のサイクルポートも充実していて大変便利です。ところどころにそっと残る歴史の「物語」
(酒井千穂)
(1)
堺県庁跡(堺市)
https://www.city.sakai.lg.jp/kanko/rekishi/bunkazai/bunkazai/shokai/bunya/shiseki/oldkencho.html
(2)
企画展 堺県150年「堺県とその時代ー近代地方行政のさきがけー」サイトより(堺市)
https://www.city.sakai.lg.jp/smph/kanko/hakubutsukan/kikaku_tokubetsu/sakai-ken.html
(3)
旧堺燈台(堺市)
http://www.city.sakai.lg.jp/kanko/rekishi/bunkazai/bunkazai/shokai/bunya/shiseki/oldtodai.html
(4)
絵葉書にみる堺大浜灯台 明治末~昭和初期頃(堺市・堺市立図書館)
https://www.lib-sakai.jp/kyoudo/kyo_digi/sakaikoutooohama/kyo_digi_e_toudai.htm
(5)
旧堺燈台 ー大浜のきのう・きょう・あすー(堺市・堺市立図書館)
https://www.lib-sakai.jp/kyoudo/kyo_digi/kyuusakaitoudai/sakaitoudai_kenchiku.htm
(6)
中世の貿易都市として人・物・情報が交流(堺市)
https://www.city.sakai.lg.jp/shisei/toshi/rinkai/rinkaitoshi/kyukoshuhen/sakaikyumukashi/hitomono/index.html
(7)
デジタルアーカイブで堺を巡る(堺市・堺市立図書館)
https://www.lib-sakai.jp/kyoudo/kyo_digiPottering/index.htm