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アネモメトリ -風の手帖-

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万葉集と越の国
― 富山県高岡市、射水市、富山市

元号が令和になって4月が過ぎました。『万葉集』の時代、ここ富山県は「越(こし)」と呼ばれた地域の中のひとつで、『万葉集』を編纂した大伴家持は、天平18年(746)から約5年間、越中国守として現在の高岡市伏木に赴任していました。
『万葉集』には、4500首余の歌が収められています。そのうちの340首ほどが越中を舞台とした歌で越中万葉と呼ばれ、さらにその中の220余首が大伴家持の歌です。

東風(あゆのかぜ)いたく吹くらし奈呉の海人の釣りする小舟漕ぎ隠る見ゆ(巻17・4017)
東の風がたいそう強く吹くらしい。奈呉の海で海人が釣をしながら漕ぐ小舟が、波のうねりに見え隠れしている。

奈呉は現在の射水市新湊地区の海岸。「あゆのかぜ」とはこの土地の言葉で、海から陸に向かって吹く風のことを言います。富山県を東西に走る「あいの風とやま鉄道」の名前はこの歌に由来しています。家持は越中の自然をこの土地の言葉を取り入れて詠み、今ここに住む私たちに、当時から変わらずあり続ける自然を伝えてくれています。
富山県内には越中万葉の歌碑が多くあります。また、高岡市万葉歴史館では、『万葉集』について学べるだけでなく、歌に詠まれた草花や樹木が植えられた庭園を散歩することができます。富山市にある高志の国文学館でも『万葉集』をはじめ、富山県ゆかりの作家や作品などが紹介されています。家持が越中で見た風景を追ってみるのも楽しいかもしれませんね。
さて、家持が赴任した高岡市では毎年、「万葉まつり」が開かれます。中でも「万葉集全20巻朗唱の会」は、3日間にわたり『万葉集』全20巻をリレー方式で歌い継ぐ一大イベントです。全国から参加者を募集し、老若男女2000人を超える人たちが特設の水上舞台で思い思いに朗唱します。今年の開催は10月4日から6日までぜひ見に来てくださいませ。

(加藤明子)

参考文献
多田一臣、富山県(2017)『万葉歌人大伴家持』富山県
北日本新聞社編(1998)『絵草紙 越中の家持』北日本新聞社

射水市の放生津八幡宮にある「東風いたく吹くらし・・・」の歌碑

射水市の放生津八幡宮にある「東風いたく吹くらし・・・」の歌碑

富山市の高志の国文学館

富山市の高志の国文学館

射水市の放生津八幡宮境内にある祖霊社。毎年8月25日に同宮を創建したとされる大伴家持をしのび、祖霊社祭が行われます

射水市の放生津八幡宮境内にある祖霊社。毎年8月25日に同宮を創建したとされる大伴家持をしのび、祖霊社祭が行われます