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アネモメトリ -風の手帖-

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#113

生活に溶け込んだ焼きとり文化
― 福岡県久留米市

バラ、さがり、ダルム、ヘルツ、せんぽこ……。見慣れない文字が並んでいますが、何のことか分かりますか? 実はすべて焼きとりのメニューです。
福岡県久留米市。とんこつラーメンの発祥地として有名な町ですが、北海道美唄市、室蘭市、福島県福島市、埼玉県東松山市、愛媛県今治市、山口県長門市と並び「全国7大焼きとりの街」のひとつに数えられいます。店舗数は約200軒、2003年当時、人口1万人あたりの焼き鳥店の数が7.46軒と全国一の町として「焼きとり日本一」を宣言しています。久留米焼きとりの特徴は、その種類の多さです。鶏や豚、牛、馬、野菜など、なんでも竹串に刺し、アスパラ巻などの巻物も豊富で、酢ダレがかかったざく切りのキャベツと一緒に食べます。
久留米の焼きとりは、屋台で出されたのが始まりと言われています。昭和30年代後半には、ブリヂストンタイヤ(現:株式会社ブリヂストン)や日本ゴム(現:アサヒシューズ株式会社)、月星化成(現:株式会社ムーンスター)のいわゆる「ゴム3社」により町は大変賑わっていました。当時の労働者にとって鶏肉は高価で、手軽な豚肉を好んで食べていたこともあり、鶏肉以外や内臓のメニューが多いと言われています。また、久留米は古くから「医者のまち」と呼ばれ、医学生も多く住んでいました。彼らが焼きとりの「腸」を「ダルム」、「心臓」を「ヘルツ」とドイツ語で呼んだことがメニューの語源になっています。ちなみに「せんぽこ」は「動脈」のことです。
「焼きとり」と聞くとお酒のツマミをイメージする人が多いかもしれませんが、久留米では焼きとり屋が学校行事の打ち上げにも使われるほど、子供から大人まで広く愛されており、家族連れもよく見かけます。毎年秋には「久留米焼きとり日本一フェスタ」が開催され、市内外から2日間で4万人が訪れ、多くの人々が焼きとりを楽しんでいます。
福岡に訪れた時は、久留米まで足をのばしてみませんか? 町と密接に関わった食文化をぜひ味わってみてください。

(月田尚子)

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久留米やきとり (2)