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アネモメトリ -風の手帖-

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#108

沖縄芝居『丘の一本松』
― 沖縄県北谷町

沖縄の言葉で演じられる「沖縄芝居」(1)は戦前は劇場を中心に、戦後は地元テレビ局による舞台中継で大変人気がありました。しかし娯楽の多様化で、人々の興味は沖縄芝居から遠ざかっていきます。最後まで自主公演を行っていた劇場も1977年に閉館しました。
毎週放映されていたテレビ番組も2007年には月2回の放送に、そして2018年以降には月1回になりました。
そのような状況においても、各地の敬老会(2)や小学校の学芸会(3)や中学校、高等学校の文化祭などで度々演じられている沖縄芝居の代表作に『丘の一本松』があります。
親子の情愛を描いた『丘の一本松』は名優・大宜見小太郎(おおぎみこたろう)が、大阪の庶民生活を笑いで描いた家庭劇『丘の一本杉』を1941年ごろに沖縄芝居として改作し、彼の劇団、大伸座で上演した人情喜劇です。1993年には大宜見氏による1000回突破記念公演が行われた人気演目です。
大伸座は彼の娘・大宜見しょうこ氏に引き継がれ、2014年に再スタートします。旗揚げ公演に取り上げられた演目はもちろん『丘の一本松』でした。
この作品の舞台は沖縄本島中部に位置する北谷町です。大伸座の旗揚げ公演は北谷町の文化事業として町のホールで行われました。それ以降、毎年、同ホールで大伸座による『丘の一本松』の上演が続いています。
平成312月17日に行われた『北谷町自主文化事業2018 大伸座 丘の一本松』(写真1)に行って来ました。私自身初めての劇場での沖縄芝居の体験です。
劇場のロビーには『丘の一本松』の絵(写真2)が飾られていました。同時に開催されていたギャラリー展では、地区の公民館落成記念に植樹された松の木の前で記念撮影に望む大宜見氏と、氏に贈呈された感謝状(写真3)が展示されていました。この町の人々の作品への愛着がわかります。
初演から70年、大宜見が演じた父親役は琉球芸能の実演家で国立劇場おきなわ芸術監督でもある嘉数道彦氏に引き継がれ、息子役は重要無形文化財「組踊(くみおどり)」の後継者育成事業第1期卒業生・金城真次氏に引き継がれています。若い世代に意思が継承されていることを実感できた舞台でした。

(儀間真勝)

(1)
国立劇場おきなわ沖縄芝居
http://www.nt-okinawa.or.jp/okinawan-traditional-performing-arts/okinawan-plays

(2)
平成28年度 南城市敬老会
http://www.city.nanjo.okinawa.jp/about-nanjo/introduction/nanjo-diary/2016/10/28-20160930.html

(3)
漢那小学校学芸会
http://blog.ginoza-bunka.jp/2009/02/08/%E6%BC%A2%E9%82%A3%E5%B0%8F%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E5%AD%A6%E8%8A%B8%E4%BC%9A

写真1:「北谷町自主文化事業2018 大伸座 丘の一本松」

【写真1】『北谷町自主文化事業2018 大伸座 丘の一本松』

写真2:「丘の一本松」(比嘉美津子)

【写真2】《丘の一本松》比嘉美津子

桑江区公民館落成記念植樹および大宜見小太郎氏への感謝状

【写真3】桑江区公民館落成記念植樹および大宜見小太郎氏への感謝状