車窓から見えるのは、どこまでも続く吉野川。オレンジ色の夕陽がキラキラと反射する穏やかな水面にはゆらゆらと浮かぶ丸い浮き。すじ青のりの養殖が盛んなこの地域の冬の風景です。かつては度重なる洪水により「暴れ川」と呼ばれたこの川は、その氾濫によって肥沃な土を運び、この地域の藍作を盛んにしました。
藍染めのもとになる天然染料「すくも」の全国一の生産量を誇る徳島県板野郡上板町。徳島県で作られたすくもは「阿波藍」と呼ばれ、その美しい色を染め出す阿波藍は、伝統を受け継ぐ数少ない藍師の手で今でも製造されています。
すくも作りは3月の大安の日から始まります。種まきをし、育み、刈り取った葉を天日干しし、発酵させる。これを何度か繰り返しながら1年間かけてすくもを作ります。このすくもに「灰汁」と呼ばれる溶液と貝灰、麸などを加え攪拌し発酵させる藍建てという作業を行い、染め液を作ります。
布をしっかりと握りしめ藍甕に入った染め液に手を浸すと、ひんやりとした冷たさと独特のぬるりとした感触が伝わってきます。布を沈めたまま、ゆっくりと手を動かしながら絞る作業を繰り返し、藍甕から布を取り出し空気に触れさせると、深緑色が徐々に鮮やかな青色に変わっていくのが分かります。その青の美しさは、思わず「わぁ!」と声を上げてしまう程です。
「すくもの魅力を伝えていきたいんです」と語る渡邉健太さんは、阿波藍の青に魅せられ6年前に徳島県に移り住み、藍の栽培から染色、製造まですべてを一貫して行う藍師・染師です。新たに染色工房「WATANABE
藍染をやる人は多いけれど、提供出来るすくもは限られている。すくもの生産量が増えれば、全体の底上げにつながるはず。だからこそ、農業としてのすくも作りと藍染の魅力を伝えていきたいと渡邉さんは続けます。
天候や気温に大きく左右され、非常に手間がかかる天然藍。洗い続けてもなお鮮やかに浮かび上がる青色を見ていると、藍の息づかいを感じます。私たちはいつの間にか、簡単に手に入るものに慣れすぎてしまったのかもしれません。いつまでもこの青色を見ていたいから、真摯に藍に向き合う渡邉さんの挑戦を応援しようと思います。
(月田尚子)
WATANABE’S(instagram)
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