ビルが建ち並ぶ浦和区の中山道沿いに、今も古い佇まいを残す日本茶販売の老舗「青山茶舗」があります。
この店舗は江戸時代末期から明治初期に建てられた出桁造りの建物で、数年前までは近隣に他にも何件かありましたが、今では数を減らしてしまい、青山茶舗は貴重な存在となっています。店内には黒光りをした大黒柱や土間があり、奥の棚には茶壺や茶缶、茶箱などが並んでいて、風情豊かな店構えに懐かしさを感じます。
5代目となる現在の店主は、日本茶をもっと多くの人に楽しんでもらいたいと考え、20年ほど前に、かつてはお茶の保管庫として使われていた店舗奥の納屋を改築し、日本茶喫茶・ギャラリー「楽風(らふ)」をオープンさせました。
木の梁や土壁でできたお店の中にいると、街なかの喧騒が嘘のようにゆったりとした時間が流れていきます。また、前庭には建物と同じくらい時を経た大きな桜の木があり、圧倒的な存在感を示しています。
納屋の屋根裏として使われていた2階のギャラリーでは、画廊が企画する企画展をはじめ、貸しギャラリーとして絵画、写真、工芸から現代美術まで様々なジャンルの作品展が開催されています。お客さんはこれらの作品を、畳に座ってゆったりと鑑賞することができます。土壁の小窓から見える庭の景色は、まるで額縁に入った1枚の絵画のようです。
1階のカフェには、半月ごとに作品が入れ替わる小さな展示販売コーナーや、作品展のチラシなどを設置するコーナーがあり、アーティストを支援しています。これらのアートに触れながら、くつろいだ気分でお茶をいただくこともできます。
また、このカフェの近くには、およそ2,000年前に創建されたとされる「調神社(つきじんじゃ)」があり、名前に因んだ月待信仰から、狛犬ではなく狛兎があることで知られています。境内には他にも多くの珍しい兎の彫物が設置されていますので、皆さんも是非一度この界隈に足を運んでみてはいかがでしょうか。
(小野行幸)