富山県射水市新湊地区の中心を流れる内川は、全長わずか3429メートルの舟運河川です。およそ80隻の小型漁船などが繋留されており、ここが昔から漁業で栄えた港町であることがわかります。川縁には漁師の番屋など古い家屋が立ち並び、懐かしさを感じます。風景の重要な構成要素になっている14本の橋は、生活に欠かせない交通路なだけでなく、それぞれ個性的なものになっています。そのうちのいくつかを紹介します。
神楽橋は、欄干に72枚のステンドグラスがはめ込まれ、「虹の架け橋」とも呼ばれています。架けられた当初は、地元の小学生が先生に連れられ、写生大会が催されたものでした。私もその頃小学生だったうちのひとり。チューリップやケイトウ、魚、カモメが、ステンドグラスで描かれ、この橋を渡るたびに嬉しい気持ちになりました。朝日や夕日に照らされた神楽橋は、幻想的な雰囲気を醸し出し、今では、郷土の象徴的な存在になっています。ステンドグラスは、大伴二三弥氏制作。
東橋は、屋根付きの歩行者専用橋です。両岸には休憩所が設けられ、地域の人たちの憩いの場になっています。橋の機能を備えた遊び場と言ってもいいでしょう。風見は太陽と月。夜には明かりが灯り、暖かさを演出します。設計はスペインのセザール・ボルテラ氏。
山王橋は、以前は「ふる橋」と呼ばれていました。内川に架かる橋の中で最も古く、南北朝時代には架けられていたと考えられています。平成2年に架け替えられた現在の山王橋は、大理石の手の彫刻が4基設置され、「手の橋」とも呼ばれるようになりました。人・心・夢・愛がそれぞれの作品テーマになっています。彫刻は、竹田光幸氏制作。
この30年ほどの間に、内川周辺は綺麗に整備されました。この地域の人々の原風景でもある漁船は新しくなり、橋も斬新さを備えたものになりました。変わらないのは、そこで生活する人たちの橋への親しみでしょうか。橋は「手の橋で」「屋根の橋で」などと愛称で呼ばれ、友達との待ち合わせの目印になり、渡るだけでなく立ち止まる場所として、人々をも風景の一部分に取り込んでいくようです。
(加藤明子)