盛岡の産物のなかに、紫紺染というものがあります。
これは、紫紺という桔梗によく似た草の根を、灰で煮出して染めるのです。
(宮澤賢治『紫根染について』)
盛岡で暮らしていると、時折素敵な「南部紫根染」の着物姿を目にします。盛岡に所縁の深いこの染めをご紹介したいと思い、現在流通している南部紫根染を唯一、製造販売している「草紫堂(そうしどう)」さんを訪ねました。お店は盛岡市紺屋町にあります。染め物屋が多いことからその名がついた趣のある町並みです。
店に入ると壁面に正絹の「紫根染」と「茜染」の反物、ショーケースには木綿の巾着や手提げ袋、財布などの小物が並んでいます。紫根染はムラサキという植物の根で染める絞り染めです。店員さんにお話を伺うことができました。
南部紫根染は、江戸時代まで南部藩により特産物として手厚く保護されていましたが、明治維新後は原料のムラサキが乱獲され、また化学染料の輸入により衰退し、盛岡でその技術は途絶えてしまいました。しかし大正時代に復興を図ろうと「南部紫根染研究所」が設けられ、技術を知る人からの聴き取り、独自の技術開発等により復活しました。草紫堂は、研究所の主任技師であった藤田謙氏により始められた店です。
現在、ムラサキは環境省の絶滅危惧種に指定されています。草紫堂3代目の繁樹氏は「南部ムラサキ保存会」の会長として、県内の農家や高校の協力を得て栽培、研究を続けています。
紫根染を手に取ってみて、その軽さと紬(つむぎ)のような張りに驚きました。絞りに負荷がかかるので、丈夫な白山紬の別注織の反物を使用しているということでした。製造工程は全て手作業で、原反から型付け、絞り、染色、幅だし、仕上げまで熟練の技術者の手により、丁寧に手間と時間を惜しまずに反物が作られます。「大切に着れば100年もつ」と言われる南部紫根染。一生ものの、親子代々の着物として1枚いかがですか?
(福島雪江)