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アネモメトリ -風の手帖-

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#27

カフェモーツァルト
― 富山県黒部市

北陸新幹線黒部宇奈月温泉駅から富山地方鉄道へ乗り継ぎ宇奈月温泉駅まで約20分。終着駅であるその場所はまさに温泉街の中にあり、その一角に「カフェモーツァルト」はあります。温泉街にあるカフェには地元の方だけでなく、様々な旅の人々が来店します。その中には作家、画家、音楽家も多く、映画や書籍にも登場する場所として親しまれてきました。
創業は今から30年前の昭和61年7月12日。音楽とヨーロッパのサロンを合わせたような記憶に残るカフェを作りたいという店主の能勢実さんの夢が形になりました。
能勢さんがヨーロッパへの憧れを抱いたのは小学生の時、富山に初来県したウィーン少年合唱団の歌声を聴いたことがきっかけでした。中学時代にはモーツァルトが生まれた町、オーストリアのザルツブルクを舞台にした映画「サウンド・オブ・ミュージック」に出会います。雄大な山々に囲まれた宇奈月の町並みとザルツブルクの町並みとが重なり運命を感じながら、「いつかザルツブルクへ行ってみたい」という想いが強くなったと言います。その後東京の大学へ進み、24歳のとき遂に憧れのヨーロッパへと旅立ちました。1ヶ月の滞在期間の最後に訪れた場所がフランス、パリ。多くの美術館を見て回り、パリの町を歩き回って1日の最後に必ず訪れたのが「カフェ」でした。
「コーヒーを飲みながら人々が楽しそうに話しているのがとても良いと思った」と能勢さんは話します。当時パリに在住していた同郷の画家の方から「ふるさとに帰ったらこんなカフェを作って欲しい」といわれたこともあり、このパリでの経験が開業きっかけとなりました。
店内にはモーツァルトの曲が流れ、温泉を楽しんだ旅の人々が楽しそうに会話をしています。人生の途中で立ち止まること、旅をすること、人に出会うこと、杯のコーヒーを飲むこと。でこぼこな道を行ったり来たりすることも人生の面白味のひとつになるのでしょう。
「最高のひとときを過ごせるように、最高の杯を入れたい」と話す能勢さん。冬の気配が濃くなる街角で、心が温かくなる場所です。

2016年12月12日(月)
カフェモーツァルト店主・能勢実さんインタビューより。

(北島真理子)
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