イギリス領・北アイルランドの首府ベルファスト。ヴィクトリア朝、エドワード朝時代の美しい建物が並ぶこの街には、100年以上の歴史を持つセントジョージズマーケットがあります。毎週金、土、日に開かれるこのマーケットは、レンガ造りの建物の中に所狭しと店舗が並び、いつも活気に溢れています。
観光地としても有名なこのマーケット。手芸・工芸品などが並ぶほか、地元の食材を使ったハンバーガーやクレープ、パエリア、ブリトーなどその国出身の人が作る、世界各国の料理が食べられます。出店者も来店者も、色んな人種の人がごく普通に混在していて、とても自由な空気が流れています。その中でも特にバラエティーマーケットと呼ばれる金曜日は、よりローカル色の強い店舗が並びます。
オリジナルデザインのベビー服を販売している女性が教えてくれました。
「金曜日は地元の人向けね。みんな知り合いだから、お互いの顔を見に来るのよ。特にあそこでお店をやっているおばあちゃんにね」
おばあちゃんを助けるためにみんながチャリティーとして寄付した「いらなくなったけどまだ使える物」を販売するスタイルを取っていて、もう32年も店を続けているそうです。
ケーキとコーヒー・紅茶を販売しているおじさんは「昔は自分の店舗を持ってたんだけど、閉めちゃったんだよね。それで自分で移動販売用の車を用意して、金曜日はここで販売してるんだ。あそこでチョコレートを売ってる店も俺のだよ。ここのマーケットは好きだね、色んな人に会えるから」と話してくれました。
隅のベンチで休憩している時に、隣に座った女性にマーケットについて聞いてみました。
「以前は友達に会いにここに来てたの。でも彼女は5ヶ月前に亡くなっちゃってね。それでもやっぱり毎週来てるわ。ここに来ると彼女のことを思い出せるからね」
独特のベルファスト訛りの英語をはじめ、色んな言語が飛び交うマーケット。若者もお年寄りも、カップルも家族連れも、このマーケットに来る人はみんな楽しそうな顔をしています。このマーケットが100年以上も続く秘訣。それはここで人が出会い、物語が生まれ、その物語が幾重にも重なって紡がれてきたからだと思います。「続ける」ことの意義を、このマーケットは知っている。そんな風に感じられる場所です。
(佐谷由希子)