以前より私は、多くの場合、写真・絵などが展示において明確に区分化されていることにどこか違和感を覚えていました。そんな中で出会った興味深い展示があります。フォトグラファー・吉田肇(はじめ)さんが企画された、札幌ファッションデザイン専門学校DOREME旧校舎を会場に、アーティスト・クリエイターたちによる写真・ファッション・音楽・ライブペイントを融合させた複合アート展です。
2023年初春、吉田さんは仕事上で繋がりのあった札幌ファッションデザイン専門学校DOREME学長・浅井学氏から「10年ほど使用していないドレメ旧校舎をアート展示会場として使用できないか」との相談を受け、旧校舎の視察に行きました。街の中にありながらインフラが止まった4階建ての校舎、制限がないその空間に自由で奥深い表現の可能性を感じた吉田さんは、2023年9月に1回目の展示を開催する運びとなります。
1回目の展示は、「éloquence Photo Exhibition〜裸の美の本質〜」と題し、世界中からの才能溢れるフォトグラファーたちが参加しました。写真家とモデルとの深い関係性を象徴するヌード写真をテーマに、時間が止まったような無機質な空間に展示することで人間の本質を芸術的に引きだし、鑑賞者に深い感情や思索を呼び起こさせました。
翌年、2024年9月に行われた2回目の展示では、「éloquence Photo Exhibition〜エロカンスとヌーベル・サンシビリテ(新しい感受性)〜」と題し開催されました。視覚表現の分野におけるAIの進化に脅威を覚えていた吉田さんは、インスピレーションを与えてくれる場であるドレメ旧校舎とアーティストの関係性の中で、写真・ファッション・ヘアーデザイン、それぞれの表現の融合によって卓越的な作品を生み出そうと試みました。作品と相対することで、アーティストたちはAIの先を常に前進していく必要があることを再確認することができたそうです。

「The art apartment for unique artists」フライヤー
3回目となる今年2025年5月には、更に深く多様な表現が組み合わされたアート展へと進化しています。「The art apartment for unique artists」と題され、写真家や美容師たちによる写真展示に加え、若手6ブランドによるファッションショーではライブペイント、音楽パフォーマンスが融合。さらに絵画、イラストレーション、球体関節人形が織りなす展示も行われ、旧校舎の空間は様々な感性の交差点となりました。私も足を運び、吉田さんが求めている「五感でめぐる体験型アート展示」としての形が見えてきたと感じました。

「éloquence Photo Exhibition Eloquence / Bare Silence, Essential Form
裸の静寂、本質の形」展示風景

NOJI《崇》2025
その中でも強く私を惹きつけたのは、アーティスト・NOJIさんの《崇》という作品でした。作品の奥に引き込まれるような、あるいは中から生まれ出るような、上昇しているようで下降しているような流動的空間を感じさせてくれました。
区分化の垣根を超えたアートという広いくくりでの展示表現は、アーティスト・クリエイターたちが自由に自己表現でき、鑑賞者も同じく、幅広い自己解釈で受け取ることができます。
このような創造力の場としてのドレメ旧校舎が今後も解体されず、五感でとらえる複合アート展がこの先も継続されることを願ってやみません。
取材協力
フォトグラファー 吉田 肇さん(Photo Vogue Artist)
Facebook-吉田 肇
https://www.facebook.com/nicolas7331
Instagram-吉田 肇
@hajime_yoshida_
参考
札幌ファッションデザイン専門学校DOREME、https://www.doreme.ac.jp/page1(2025年5月8日閲覧)。
「éloquence Photo Exhibition〜裸の美の本質〜」、
https://www.eloquence-photo.com/exhibition-nakedbeauty (2025年5月15日閲覧)。
「éloquence Photo Exhibition〜エロカンスとヌーベル・サンシビリテ(新しい感受性)〜」、 https://www.eloquence-photo.com/exhibition-newemotion (2025年5月15日閲覧)。
「The art apartment for unique artists」、
https://www.eloquence-photo.com/exhibition-2025-jp(2025年5月15日閲覧)。
(古月真奈美)