商品を販売しない店舗がかつて存在しました。それは仕入店と呼ばれるもので、業者から商品を買い付けるための店舗です。商取引や物流が飛躍的に発達した現代では、仕入店という店の形を取らなくなりました。しかしどんな物をいくらでどのくらい仕入れるかという業務は、いつの時代も経営の根幹にかかわることでしょう。
江戸時代の京都は高品質な呉服の一大生産地でした。そのため、後に百貨店へと発展する江戸などの呉服店は、商品調達の拠点として仕入店を京都に開設することがありました。そんな仕入店の跡を巡って京都の街を歩いてみましょう。

三井越後屋京本店記念庭園
室町通二条北西角の塀に囲まれた小さな庭園は、三井越後屋京本店記念庭園です。江戸の越後屋呉服店(現在の三越)の仕入店があった場所で、1704年に近隣から移転してきました。現在は三井不動産の管理となり、非公開です。隣接するマンションからは内部が見通せるのかもしれません。

杉本家住宅
綾小路通新町の杉本家住宅には、千葉にあった奈良屋の仕入店が置かれていました。奈良屋は1807年に佐倉へ出店し、1930年には百貨店として千葉店を開業しました。杉本家住宅は歴史的価値が評価され、国の重要文化財に指定されています。見学可能なので、往時の商家の雰囲気を堪能できます。

三井ガーデンホテル京都新町 別邸(松坂屋京都仕入店跡)
新町通六角の松坂屋京都仕入店跡には、その面影をファサードに再現したホテルが建っています。近くで眺めると、高層部が視野に入らないため江戸時代の大店のようです。
名古屋で創業した伊藤屋(現在の松坂屋)は1745年、京都に仕入店を開設しました。明治以降は仕入業務だけではなく、高級呉服のデザイナーの育成や染織品、工芸品の蒐集など文化面でも貢献しました。しかし開設から265年後の2010年に閉鎖しています。それまでずっと、町家建築のままで仕入店の営業を続けていたのは驚くべきことではないでしょうか。
参考
三井広報委員会「三井の歴史にまつわる施設 三井越後屋京本店記念庭園」、
https://www.mitsuipr.com/sights/historic-places/11/(2025年4月8日閲覧)。
公益財団法人 奈良屋記念杉本家保存会、https://www.sugimotoke.or.jp(2025年4月8日閲覧)。
三井ガーデンホテル京都新町 別邸、https://www.gardenhotels.co.jp/kyoto-shinmachi/(2025年4月8日閲覧)。
松坂屋名古屋店「松坂屋資料室」、
https://www.matsuzakaya.co.jp/nagoya/museum/historical.html(2025年4月8日閲覧)。
松坂屋 資料室 企画展 Vol.38 松坂屋 京都仕入店とその遺産、
https://www.matsuzakaya.co.jp/nagoya/museum/shiryo/s_shiryou38/html5.html#page=2 (2025年4月8日閲覧)。
(三木京志)